特集

生産者に寄り添い、串カツとおでんで人をつなぐ。東梅田の路地裏に生まれた、レトロで居心地のいい隠れ家「笠松」。

大阪・東梅田、にぎわいから一本外れた路地に、2026年5月にオープンした「串カツとおでん 笠松」がある。東梅田駅から徒歩1分、北新地駅からも徒歩5分という好立地ながら、隠れ家のようにひっそりとたたずむ一軒だ。焼肉店の居抜きを活かしたレトロで落ち着いた空間に、串カツ、おでん、そしてパスタまでが並ぶ。店長の笠松氏は東大阪の出身。学生時代にのめり込んだ農業体験をきっかけに生産者の世界に惹かれ、飲食の道へ進んだ。25歳で現在の会社に入り、国産羊専門店「ひつじや 笠松」を経て、この2店舗目を任されている。「お客さんとスタッフの満足度を上げていく」ことを軸に、生産者に寄り添う店づくりを続ける笠松氏に、その歩みと想いを伺った。


フースタ関西|生産者に寄り添い、串カツとおでんで人をつなぐ。東梅田の路地裏に生まれた、レトロで居心地のいい隠れ家「笠松」。

「串カツとおでん 笠松」店長 笠松氏



1. お店を始めたきっかけ

笠松氏は東大阪で生まれ育ち、学生時代はサッカーひと筋だった。転機は高校3年生、18歳のときのファームステイ。農家に泊まり込む農業体験を通じて生産者の世界に触れ、そこから飲食の道を志すようになる。大学に進むと1年で一度休学し、各地で飲食店のアルバイトをしながら、生産者のもとを訪ね、畑や牧場を手伝う日々を送った。「やればやるほど、農家さんは本当に大変だと実感しました」。生産者への深い共感が、後の店づくりの原点となる。

学生時代はレストランを中心に経験を積んだ。現在の会社に入るきっかけは、当時働いていたレストランの料理長の紹介だったという。「大学は卒業しなさい、という親の意向もあって卒業まで行ったんです。就職活動をしなければならなくなって、どこかのレストランかホテルに行こうと思っていたところ、紹介してもらって」。面接の帰りに、以前から客として通っていた店に立ち寄ったところ、その場でほぼ採用が決まった、という縁もあった。

入社は25歳。そのときから、笠松氏には明確な目標があった。「18歳から、いつか自分の店を出したいと決めていて。入社のときにも、10年後の35歳で完全に独立します、と伝えていました。だから10年間はしっかり勉強しようと」。1店舗目の「ひつじや 笠松」を4年前に開業し、今回の「笠松」が2店舗目にあたる。



2.独立当初の苦労

初めて自分の店を持ったときの苦労は、想像以上だったという。経営も、現場も、事務も、すべてを一人でこなす。「一番最初の店舗って、そこまで忙しいわけではなく、落ち着いた日も多い。そこで人を雇うと、お金が残らないんです」。営業から事務仕事まで一人で背負う日々。人件費と売上のバランスに向き合いながら、経営者としての足腰を鍛えてきた。今では社員も集まり、2店舗を安定して回せる体制が整っている。



3. 店づくりで大切にしていること

店づくりで何より大切にしているのは、「お客さんとスタッフの満足度・充実感を上げていく」ことだ。

スタッフに対しては、連携が取れているかを確認するのはもちろん、常に様子を見ることを心がける。「忙しくなって負担がかかっているなと思ったら、一旦休憩に行かせる。動きを見てやりづらそうだなと思ったら、まず本人に聞いて、作り方やオペレーションを一緒に変えていく」。お客さんに対しても同じで、何をしていても常に目を配る。この“見る”という姿勢が、店全体の心地よさを支えている。



4. メニューのこだわり

看板は、串カツとおでん。これまでの経験と知識を注ぎ込み、「より美味しい串カツ、より美味しいおでん」を追求する。クリームシチューを合わせたり、チーズをかけたりと、意外な組み合わせも楽しい。


フースタ関西|生産者に寄り添い、串カツとおでんで人をつなぐ。東梅田の路地裏に生まれた、レトロで居心地のいい隠れ家「笠松」。

経験と知識を注ぎ込んだ自慢の串カツ



串カツの衣には、手間を惜しまない。卵は卵黄と卵白に分け、卵黄・牛乳・水を合わせた液に、メレンゲ状にした卵白を後から合わせる。油も3種類をブレンド。ひと口で「サクッ」とした軽やかな食感が生まれる。

おでんは洋風に振り切っているのも特徴だ。串カツとおでん、そして日本酒。一見ミスマッチにも思える組み合わせを、笠松氏らしい発想でまとめ上げている。パスタまで揃うのも、この店ならではの楽しみだ。


フースタ関西|生産者に寄り添い、串カツとおでんで人をつなぐ。東梅田の路地裏に生まれた、レトロで居心地のいい隠れ家「笠松」。

串カツと相性のよい、洋風に仕上げたおでん



根底にあるのは、やはり生産者への想いだ。できるだけ農家直送の食材を使い、売れ行きが伸び悩んでいる食材があれば積極的に仕入れ、おすすめとして料理に仕立てて出していく。「それが少しでも生産者さんの助けになれば」。メニューは、お客さんの声をもとに定期的に見直す。「こんなものが欲しい、デザートが欲しい、といった要望を全部メモして、店の雰囲気やコストに合えばメニュー化しています」。お客さんに寄り添う姿勢が、品書きにもそのまま表れている。



5. お酒のこだわり

日本酒好きの笠松氏らしく、串カツ・おでんという業態ながら日本酒を数多く取り揃えている。生産者巡りの道中で酒蔵にも足を運んできた経験が生きており、フルーティーで若い世代にも飲みやすい銘柄や果実酒なども用意する。ワインやカクテルにもこだわり、幅広いラインナップがまんべんなく出るのも、この店の特徴だ。

中でもユニークなのが、ボトルキープの仕組み。串カツ店では珍しく、常連はもちろん、若いお客さんが“入口”として気軽に利用している。友人を連れてきて「ここにボトルをキープしてるんだ」と楽しむ姿も少なくない。一杯あたりで見ればお得で、また来る理由にもなる。新規からリピーターへとつながる、この店ならではの仕掛けだ。


フースタ関西|生産者に寄り添い、串カツとおでんで人をつなぐ。東梅田の路地裏に生まれた、レトロで居心地のいい隠れ家「笠松」。

ウイスキーから焼酎まで揃う、ボトルキープの棚



6. 店舗の雰囲気・客層

内装は、焼肉店だった居抜きをそのまま活かしている。重厚なカウンターは前のテナントから受け継いだもので、「今ならわざわざ作れない」という味わい深い一台だ。おしゃれでありながらどこかレトロ。その独特の空気感が、この店最大の個性であり、他の串カツ店にはない強みになっている。カウンター16席のみという小体な造りも、一人でふらりと入りやすい隠れ家らしさにつながっている。

当初はカップルでのデート利用を想定していたが、蓋を開けてみれば客層は幅広い。サラリーマン、年配のグループ、同伴やアフターの利用まで、若い世代とそれ以外がほぼ半々。「おしゃれすぎるとサラリーマンの方が入りづらい。ちょうどいい塩梅を意識しています」。棚にさりげなく置かれた遊び心のある小物も、会話のきっかけになっている。



7. 印象に残るお客様とのエピソード

深夜になると、常連客が自然と集まってくる。翌朝4時まで営業するこの店では、夜が更けてからが本番だ。店にはマイクが置かれ、Spotifyで流す音楽に合わせて、歌が好きなお客さんが気ままに歌い出すこともあるという。カジュアルな“なんちゃってカラオケ”に、ときにゲームやトランプも加わって、場が和やかに盛り上がる。「がっちりしたカラオケではなく、好きに歌ってください、くらいの気軽さで」。肩の力が抜けた居心地のよさが、この店に人を通わせている。



8. 店舗の雰囲気・客層

店名は、店長自身の名字「笠松」に由来する。「自分の名前をつけた店には、責任感を持ちやすいんです」。居抜きの内装・外装の準備に追われ、じっくり屋号を考える時間が取れなかったこともあり、「まずは責任を持つために自分の名前を」と決めたという。飾らないネーミングにも、この店らしさがにじむ。

この場所を選んだ決め手は、立地だった。商店街の通りから一本外れた、隠れ家のような一角。「メイン通りだと、この雰囲気はなかなか出せない」。内覧してほぼ即決だったという。



9. これからやってみたいこと

今後も、機会があれば店を増やしていきたいと笠松氏は語る。目指すのは、やはり「生産者に寄り添えるお店」。1店舗目の「ひつじや 笠松」は国産羊の専門店で、北海道や東北の生産者を定期的に訪ね、子羊を見て、触れ、直接取引してきた。「いろんな食材を扱うと、どうしても手が広がって中途半端になってしまう。だからこそ、何かに特化した店の方がいいと思っています」。特定の生産者や食材に軸を置いた、専門性のある店づくり。それが、これから笠松氏が描く未来だ。

農業体験から始まった一人の青年の歩みは、生産者への敬意を胸に、串カツとおでんという形になった。東梅田の路地裏で、今夜も笠松氏は、人と人、そして生産者と食卓をつなぐ場所を静かに育てている。





店名:串カツとおでん 笠松

住所:大阪府大阪市北区曽根崎2-13-5

アクセス:東梅田駅より徒歩1分/北新地駅より徒歩5分

営業時間:17:00〜翌4:00(L.O. 料理翌3:00/ドリンク翌3:30)

定休日:なし

予算:3,000円〜3,999円(お通し代418円)

席数:16席(カウンター16席)/貸切20名以下可

お支払い:カード可(VISA・Master・JCB・Diners・AMEX・UnionPay)/QRコード決済可(PayPay)/電子マネー不可

ご予約:予約可 TEL 06-6948-6690

Instagram:https://www.instagram.com/kushimatsu_0338

食べログ:https://tabelog.com/osaka/A2701/A270101/27156058/

特集一覧トップへ