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【神戸特集vol.9】海岸通「cafe & bar anthem」旅の記憶が息づく、変わらない世界観。

元町駅から南へ歩き、海に近づく海岸通。とあるビルの4階、控えめな扉を開けると、アンティークで彩られた空間が広がる。「cafe & bar anthem(アンセム)」。やわらかな灯りに包まれたこの隠れ家は、食べログ「カフェ WEST 百名店」にも選ばれた。今では訪れる人の多くは海外からの旅行者が占めるほど人気を集めている。店主の大田誠氏は、世界を旅して育んだ美意識を一軒のカフェに写し出し、変わらない味と変わらない空気を、静かに重ねてきた。派手な宣伝はしない。それでも人が集まり、また訪れる。そんな「anthem」の歩みと、この街・神戸への想いを伺った。


【神戸特集vol.9】海岸通「cafe & bar anthem」旅の記憶が息づく、変わらない世界観。

cafe & bar anthem(アンセム)店主:大田誠氏



1. お店を始めたきっかけ

大田氏が飲食の道に入ったのは、少し意外な回り道だった。もともとは飲食とは別の仕事に就いていたが、大学時代の友人に誘われ、二人でカフェを開くことを思い描く。

「就職して一年ほどで、二人とも会社を辞めたんです。そこからの五、六年は、アルバイトをしながらコツコツと開店資金を貯めていきました。」

旅が好きで、若い頃から世界のあちこちを巡っていたという大田氏。とりわけ心を掴まれたのが、ヨーロッパの街並みだった。

「あの町並みや、向こうの人の暮らし方が好きで。そういうものが、少しずつ自分の中に積み重なっていった気がします。」

その美意識こそが、のちに「anthem」の礎となる。構想を大きく動かしたのは、一冊の雑誌との出会いだった。誌面で見かけた、東京・恵比寿のアンティークショップ。その空気感に一目で惹かれた大田さんは、「このままカフェにできたら素敵だ」と直感したという。

「自分たちでやろうとしても、どうしても素人っぽさが出てしまう。だから、この方にどうしてもお願いしたかったんです。」

面識はまったくなく、雑誌で見ただけの相手だった。それでも思い切って内装を依頼すると、その願いは受け入れられた。こうして、ほかにはない唯一無二の空間が、少しずつ形になっていった。店を構えたのは、海岸通のビルの4階。決して目立つ立地ではないが、この場所から「anthem」の物語は始まった。


【神戸特集vol.9】海岸通「cafe & bar anthem」旅の記憶が息づく、変わらない世界観。

世界観を感じることができる入口




2.こだわっていること

「anthem」のメニューは、コーヒーや紅茶、自家製パン、キッシュ、パスタ、そして名物のチーズケーキまで、どれも丁寧に作り込まれている。その一皿一皿を支えているのは、大田氏の独学の積み重ねだ。

「どこかで修業したわけではないんです。雑誌や料理本、ネットを見ながら、一つひとつ、納得がいくまで作ってきました。」

新しいメニューを次々と生み出すタイプではない、と大田氏は言う。むしろ、一つのものをとことん磨き上げていくほうが性に合っている。

「新作を考えるのは、正直あまり得意じゃなくて。それよりも、一度完成したものをずっと続けていくほうが、自分には向いているんです。」

だからこそ、看板メニューは長い年月、変わらぬ姿で愛され続けている。その象徴が、ガーゼに包まれた純白のレアチーズケーキだ。あるチーズ専門店のレシピに着想を得て、自分たちで作ってみたところ、驚くほど美味しかったという。そこで使われていたチーズをそのまま取り寄せ、少しだけ手を加えて、「anthem」らしい一皿に仕上げた。


【神戸特集vol.9】海岸通「cafe & bar anthem」旅の記憶が息づく、変わらない世界観。

ガーゼに包まれた「レアチーズ」のケーキはベリーのジャムでも楽しめる



材料選びの基準は、いたってシンプルだ。
「産地に強いこだわりはないんです。いろいろ試してみて、自分が一番美味しいと感じたものを使う。ただそれだけです。」
たとえばクリームパスタのサーモンも、あれこれ食べ比べた末に、意外にもチリ産に落ち着いた。一方で、味のブレを防ぐ工夫は徹底している。
「誰が作っても同じ味になるように、塩分濃度まできっちり測るんです。人によって味が変わってしまうのだけは、避けたくて。」
感覚任せにしない一方で、自分の舌を過信しすぎない謙虚さも併せ持つ。「自分が美味しいと思ったものを出して、あとはお客さんの反応を見る。美味しそうに食べてくれていたら、それで大丈夫なんです」と笑う。


【神戸特集vol.9】海岸通「cafe & bar anthem」旅の記憶が息づく、変わらない世界観。

素材の味も堪能できる「スモークサーモンのクリームソース」



自家製パンも、いくつかの試作の末、二種類へと絞り込んだ。一晩寝かせて翌朝に焼き上げるスタイルは、作り手にも無理がなく、お客様にも喜ばれている。
飲み物へのこだわりも深い。コーヒーは、スタッフの縁で出会った豆を今は使っている。よく注文されるというカフェラテは、チーズケーキとも自然に調和する。紅茶は、ミルクティーに合う茶葉を探し歩き、ウイスキーやチョコレートを思わせる香り高い一杯に辿り着いた。季節ごとに新しい茶葉も取り入れ、そのすべてを大田氏が吟味している。


【神戸特集vol.9】海岸通「cafe & bar anthem」旅の記憶が息づく、変わらない世界観。

チーズケーキとの相性も良い「カフェラテ」




3. スタッフとの関係で大切にしていること

現在、「anthem」を支えているのは、レギュラーで入る四、五人を中心とした頼もしいスタッフたちだ。その多くはこの街に暮らし、もともと店のファンだった人や、募集を見て集まった人たち。社員はおらず全員がアルバイトながら、その結束は固い。

「僕がいなくても、一ヶ月くらいは平気で店を回してくれるんです。だから僕は、ぐいぐい引っ張るというより、みんなに任せている感覚ですね。」

長く働くスタッフが多いのも、この店の特徴だ。七年働いてくれている方もいれば、勤続五年以上のメンバーが何人もいる。「うちは、あまり辞めないんですよ」と大田さんは笑う。

変わらない味を支えているのも、そんなスタッフたちだ。腕のあるスタッフが新しく入った人へと丁寧に伝えていく。そうやって受け継がれてきた味が、長い年月にわたって「anthem」の看板を守ってきた。

「コーヒーが好きな子はコーヒー屋を、ケーキが好きな子はケーキの道へ。ここで好きな分野を深めて、自分の店を始めた子も何人かいるんです。」

巣立っていく背中を、大田氏は頼もしく見送っている。


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立地とも相まってゆったりとした時を感じられる空間




4. 印象に残るお客様とのエピソード

近年、「anthem」の客層は大きく変わった。いまや訪れる人の多くが、海外からの旅行者だという。とりわけ多いのが、台湾をはじめとする中華圏のお客様。SNSで店を見つけ、わざわざ「anthem」を目当てに足を運んでくれる。

「三年ほど前から、ぐっと増えてきました。朝の時間帯は、ほとんどが海外のお客様ということも。近くのホテルに泊まって、朝いちばんに来てくださるんです。」

注文されるのは、純白のチーズケーキ。神戸の片隅にある隠れ家の一皿は、いつのまにか海を越えて知られる存在になっていた。

その一方で、大田氏の胸に深く残っているのは、変わらないこの空間を愛し続けてくれる人たちの存在だ。

「『学生時代によく来ていました』と、十年ぶりに訪ねてくださる方がいるんです。味や飲み物というより、この店の雰囲気そのものを覚えていてくださって。内装も昔から一切変えていないので、それを喜んでもらえるのが、うれしいですね。」

変えないことが、いつしか誰かの記憶の拠り所になる。長く続けてきたからこそ受け取れる言葉が大田氏の励みにもなっている。


【神戸特集vol.9】海岸通「cafe & bar anthem」旅の記憶が息づく、変わらない世界観。

アンティークに囲まれる非日常




5. これからやってみたいこと

これからについて尋ねると、返ってきたのは等身大の答えだった。メニューを大きく変えるつもりはなく、目指すのは、いま手元にあるものの完成度を、さらに高めていくこと。

「派手に新しいことをするというより、一つひとつの精度を上げていきたいんです。店の仕組みをもっと整えて、スムーズに回るようにしたくて。」

実際、少し前まで続けていたディナーの提供は、思い切って手放した。無理に品数を増やすよりも、シンプルに、自分たちらしく。その割り切りが、心地よい店づくりにつながっている。

「メニューを増やしすぎると、ロスも心配事も増えてしまう。少ないものを、きちんと。そのほうが、結局はみんなに喜んでもらえる気がするんです。」

そして大田氏は、頼れるスタッフに店をより一層任せ、自身は一歩引いた立場から支えていきたいと考えている。落ち着いた空間で、ゆっくりとコーヒーを味わってもらう。その変わらない時間を守るために、いまは足場を整えているところだ。


【神戸特集vol.9】海岸通「cafe & bar anthem」旅の記憶が息づく、変わらない世界観。

木製で揃えられた温もりを感じる空間




6. この街「神戸」への想い

広島で生まれ育った大田氏にとって、神戸は縁あって辿り着いた街だ。はじめて訪れたとき、その景色に心を奪われたという。

「ごちゃごちゃしていなくて、綺麗なんです。空気がいい感じがして。そこがすごく好きで。」

この場所で店を開いた理由を尋ねると、意外なほど素直な答えが返ってきた。

「正直に言うと、お金がなかったんです(笑)。中心地ではないけれど、この辺りはおしゃれな個人店が多くて。歩いている人の雰囲気も素敵で、それが決め手でした。」

本当はもっと古い趣のある物件への憧れもあったが、条件が合ったのがこの4階だった。看板も控えめで、入口も分かりにくい。インスタグラムもなかった開業当初は、「誰にも気づいてもらえないかもしれない」という不安もあったという。

それでも「今は、みんなちゃんと調べて来てくれる時代ですから。場所は、あまり関係ないのかもしれませんね。」

実際、大がかりな宣伝をせずとも、口コミと人の縁だけで「anthem」は愛され続けてきた。そんな大田氏は、これからの神戸に、ささやかな願いを寄せる。

「大きく発展しなくてもいいんです。でも、過疎化していくのは寂しい。大手ばかりじゃなくて、この辺りみたいに個人の小さなお店が集まる風景が、ずっと続いてほしいですね。」

海から近く、個性的な店が息づくこの街で、隠れ家のような空間は、今日も静かに扉を開けている。旅の記憶と、変わらない世界観を胸に。大田氏は、この場所で淹れる一杯を、これからも変わらず届けていく。


【神戸特集vol.9】海岸通「cafe & bar anthem」旅の記憶が息づく、変わらない世界観。


■店舗情報

店名:cafe & bar anthem(アンセム)

住所:兵庫県神戸市中央区海岸通2-3-7 グランディア海岸通 4F

【営業時間】
月〜日/09:00-21:30
※営業時間・定休日は変更となる場合があります。ご来店前に店舗へご確認ください。

予算:¥1,000~¥1,999

席数:25席(カウンター席あり)

お支払い:現金のみ(クレジットカード・電子マネー・QRコード決済不可)

ご予約:不可

https://tabelog.com/hyogo/A2801/A280102/28005049/

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