三宮の東に位置し、個性的な飲食店が集まるエリアとして注目度が高まっている二宮。そこに、連日満席の人気居酒屋「ふじまる」がある。神戸随一の繁華街へ向かう人波と反対方向と言えるこの地を選び、人を呼び、店を繁盛させたオーナーの伊藤祐矢さんと、店舗責任者の北浦正成さんにその秘訣を聞いた。

「ふじまる」オーナーの伊藤祐矢さん(右)と北浦正成さん。
コロナで途絶えた夢を、コロナを契機に手に入れて
伊藤さんは、奄美大島の出身。高校卒業後に関西へ移り住み、茨木にある九州料理屋でアルバイトを始めた。ここで数年働いた後、沖縄料理を中心に店舗展開する(株)てりとりーに入社。「料理は茨木のマスターに、経営はてりとりーに教わり、この両輪を習得したことが独立への自信につながりました」と伊藤さんは話す。
しかし、満を持して独立へ踏み出そうとした矢先、飲食業界は新型コロナにより窮地に立たされる。「夢が一気に途絶えた瞬間でした」と当時の絶望感を振り返る。
伊藤さんは先行き不透明な飲食業界を一旦離れるが、すぐまた戻り、てりとりーを退職した先輩が北新地に構える店で働くことにした。そこで先輩に言われた言葉が、伊藤さんを突き動かす。「この状態が一生続くことはない。今、動いている奴が勝つ。コロナ禍の今こそ、いい空き物件が出るから探しておけ」。
そこから伊藤さんの不動産巡りが始まった。当初は福島と天満で探したが、希望条件に合う店が見つからず、三宮まで広げて探すことにした。
神戸は伊藤さんにとって、誰一人として知る人のない馴染みのない地。しかし、三宮の東、「二宮」に理想的な空き物件が出た時、「バチっとハマるものを感じた」という。
事前のマーケット調査で、神戸には九州料理の店が少ないことを掴んでいた。さらに、当時は「裏三宮」と呼ばれていた二宮という場所にも魅力を感じた。
人通りが少なく古い建物の多い住宅地。その中心にシャッター街となった昭和レトロな「二宮商店街」がある。人の流れと反対方向にあるため、三ノ宮駅から近いにもかかわらず、家賃は駅南側の7割程度。「繁盛店を作るというのは、その街を活気づけることで、居酒屋にはその力がある。理想の物件で、人通りの少ないこの二宮に人がたくさん来るような大繁盛店を作る。そこにワクワク感を覚えました」。
最初で最後の苦労からの、大きな出会い
ふじまるは、コロナ収束による外食回帰の潮流やインフルエンサーによるSNS発信等で開店よりあっという間に認知され、売り上げが伸びていった。しかしその一方で、伊藤さんはストレスを抱えていた。料理長は厨房にこもり料理を作ることに集中したい職人気質。他方、伊藤さんは料理人もお客さんと一緒になって場を盛り上げる酒場にするのが夢。すれ違いに悩んだ末に半年で料理長にやめてもらい、ワンオペとなって店を切り盛りした。その時の苦い経験を「最初で最後の苦労」に挙げる。
一緒に働く人がいかに大切かを思い知った伊藤さんの目に留まったのが、甲子園球場近くのイタリアンバルで店長をしていた北浦さんだった。伊藤さんは同店の常連客。「(北浦さんは)ものすごく愛のある人で信頼できると感じたうえ、二宮に対する想いまでも一致していて。僕から一緒に働いて欲しいとお願いしました」。
北浦さんは神戸出身。イタリアンバルで働き出した当初(2020年)から、3年で区切りをつけて独立するか、神戸で商売をすると決めていたという。その中で、理想としていたのが、二宮のとある立ち飲み店だった。「三宮に来た人が行かないようなエリアにあるのに大繁盛していて。小さな店でふたりだけで料理を作って接客もやり、メニューやワインの説明までする。大きな厨房でしか働いたことのない僕には衝撃的で、こんなかっこいい大人になりたい、と即座に思ったほどでした」。
北浦さんのそんな憧れと伊藤さんの描く理想の酒場像は、一致していた。加えて、「憧れのふたり」が『裏三宮(二宮)を盛り上げたい』というハッシュタグを立てて活動しており、そこに加担したい気持ちもあった。そして何より伊藤さんとなら「一緒に働いたら絶対に楽しい」と思えて、オファーをふたつ返事で引き受けたという。これが、ふじまるを深化させる出会いとなった。
夢は、二宮を店ではなく地名で選ばれる場所に
ふじまるの料理は「胡麻カンパチ」「土鍋ご飯」「チキン南蛮」「鶏の唐揚げ」が定番メニューで、そのほかは季節ごとに変わり、炉端焼きが中心。「胡麻カンパチ」は開店当初から不動の人気で、殆どの人が注文するという。お酒は奄美大島出身の伊藤さんのこだわりで焼酎がメイン。有名なものから変わり種まで、20代店長の「若い感覚」に任せて揃えているそうで、焼酎ハイボールはふじまる人気を支えるひとつとなっている。
繁盛店を作り上げたふたりの今の夢を尋ねると、「食事をする際に、二宮を店ではなくエリアで決めてもらえる場所にしたい」との答え。「天満に飲みに行く」といった風に、地名で選ばれるようになりたいという。
「今、二宮の飲食店は互いをライバル視するのではなく、皆で一緒に盛り上げる方向性で一致しているんです」と伊藤さん。そのためのアクションとして昨年、2月22日を「二宮の日」とし、飲み歩きイベント「VAMOS二宮ノミニイコウ」を開催した。北浦さんも中心メンバーとなって店舗に参加を呼びかけ、20店の賛同を得た。
イベントは参加客にリストバンド買ってもらい、それをつけてイベント参加店にいくと、1000円でワンドリンクと店の名物料理を楽しめる仕組み。当日、二宮は店から店を渡り歩く人たちで大いに賑わった。
9月には第二弾として「VAMOS二宮 秋祭り」を実施。二宮商店街に参加店舗が屋台を出し、子どもが遊ぶブースも設け、およそ850人が訪れる盛況ぶりとなった。さらに今年2月には再び「VAMOS二宮ノミニイコウ」を行い、9月には北浦さんがリーダーとなって秋祭りを企画・運営する予定だ。
こうした取組みもあり、かつては「裏三宮」を代名詞とした二宮は、地名で認知度を増しつつある。
料理だけでない、ふじまるが支持されるワケ
最後にふたりが今、店の運営で最も大切にしていることを聞いた。すると、北浦さんが自身の名刺を指差した。肩書きがCEOならぬCHOとなっていて、その下に「最高幸福責任者」と書かれている。
Hはhappinessの頭文字。「お客様とスタッフ両方の幸福度を上げたくて。そのために、スタッフの採用条件はひとつだけで、『気持ちのいい人』。元気がない仲間を気遣う声がけだったり、お客様が困っている時の気づきだったり、それをできるのが僕らの求める人。誰にとっても気持ちいい場所であるのを最も大切にしています」。
ふじまるでは客席にウェルカムボードが置いてあり、スタッフが毎日1時間かけて予約客の名と想い想いのメッセージを手書きしているという。
地域を想い、人を想い、その両方に幸せを届けることに全力を尽くす。それが訪れる人たちに気持ちよく伝わってくる。そこに、ふじまるが繁盛店であり続ける秘訣があると知った。

伊藤さん自らがデザインを手掛けた、木の温もりが心地よい店内。
店名:ふじまる
住所:兵庫県神戸市中央区二宮町4-6-4 アーティスト神戸三宮 1F
【営業時間】
火・水・木・金/17:00-23:00、L.O. 料理22:00 ドリンク22:30
土・祝日/14:00-23:00、L.O. 料理22:00 ドリンク22:30
日/14:00 – 22:00、L.O. 料理21:00 ドリンク21:30
月/定休日
予算:夜¥4,000~¥4,999 昼¥3,000~¥3,999
席数:32席(カウンター10席/テーブル席22席)













