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【神戸特集vol.20】三宮「カフェ ケシパール」笑顔で笑顔をつなぐ。手づくりした店の15年続くひととき。

三宮の東、磯上公園からほど近い御幸通。ビルの階段を上がった2階に、「カフェ ケシパール」はある。木のテーブルに椅子や棚、足もとの床板。そのほとんどが、オーナー夫妻の手でつくられたものだ。看板はチーズケーキと珈琲。チーズケーキは名都子氏が考案するもので、レシピは約140種にのぼり、週替わりで数種が並ぶ。2011年4月に西山達也氏と名都子氏の夫婦がふたりで開いた店は、この春、15周年を迎えた。同じビルの9階には“はなれ”の「ケシパルーフ」、国道2号線を東へ歩いた小野柄通には、名都子氏が自ら店に立つ「ケシパールスタンド」がある。店名のケシパールは、偶然生まれる小さな天然真珠のこと。その石言葉は「ひとときの休息」だという。日常のなかで演出する、ひとときの非日常とこの街で過ごしてきた想いを伺った。


フースタ関西|【神戸特集vol.20】三宮「カフェ ケシパール」笑顔で笑顔をつなぐ。手づくりした店の15年続くひととき。

左から西山名都子氏・西山達也氏(※ケシパールスタンドにて撮影)




1. お店を始めたきっかけ

ふたりの出会いは東京での大学時代。卒業後は東京で別々の会社に就職した。

達也氏は理系だったこともあり、研究開発の仕事に就く。

そのなかで海外勤務の話が出た。それだけは嫌だった。

「日本が大好きなんで。日本にいたいっていう気持ちがあって。それで転職しようかなと考えた時期があったんです。」

同じころ、名都子氏も次の一歩を考えていた。しかし、その話は彼女の幼少期までさかのぼるところから始まる。

「たぶん、すごく繊細な子どもだったんですよ」

家族の言い合いや、友達同士のけんか。自分が加わっていなくても、見ているだけで悲しくなった。

神社でお願いをするときも、流れ星を見つけたときも、願うことは決まっていた。世界が平和になりますように。

小学生になって、ひとつのことに気づく。

「自分がポジティブな気持ちでいるときって、すれ違う人に気持ちいい挨拶がしたくなるし、何かあったら『ありがとう』って言いたくなる。でも逆に、しんどいときとか悲しいときって、気持ちいい挨拶ができないなって。」

「当たり前だけど、私の関わり方によって、相手の気持ちがネガティブにもなるし、ポジティブにもなる。これってもしかして、すごいことかもしれないって発見したんです。」

中学生のとき、映画『ペイ・フォワード』を観た。受け取った善意を、次の誰かへ渡していく物語である。

「私がやりたいのはこれかもしれない、って。私が目の前の人をポジティブにしていって、それがあふれるくらいになったら、その人に関わる次の人にも絶対ポジティブが波及する。それが続いていけば、すごく小さな積み重ねかもしれないけど、世界平和につながるんじゃないかって。小さなことからコツコツと、ですね(笑)」

そのとき、生き方を決めた。

「自分のポジティブなエネルギーで、目の前の人をポジティブな気持ちにして、それによって世界を平和にしていく。笑顔で笑顔をつくる。それを自分の生き方にしようって決めて。そこからずっと、その思いは変わっていないんです。」

名都子氏の言う「笑顔」は、にっこりと笑う顔だけを指していない。一生懸命に頑張る姿も含めた、ポジティブなエネルギーの総称である。

大人になれば、仕事が人生の大半を占める。時間的にも、エネルギー的にも。

「せっかく長い時間働くのであれば、人と関わって、目の前の人にポジティブな影響を与えられることをやりたいって思ってたんです。」

就職先に選んだのは、大手コーヒーチェーンだった。掲げている理念が、自分の信念に近かった。そこで3年働いた。

「企業で働いていると、企業の意思が一番じゃないですか。それは当たり前なんですけど。ここではこのぐらいが限界だな、っていうのが見えてきて。」

「とりあえず3年は働け」という空気が、当たり前だった時代である。ふたりとも、3年をネガティブに辞めるのではなく、ステップアップの区切りにしようと考えていた。

達也氏は、その3年間の名都子氏を近くで見ていた。

「慕ってくれる人がめちゃくちゃ多くて。それを見てたら、人としての魅力というか、人を引きつけるものは本物だって、すごく思ったんです。」

ふたりは社会人1年目で結婚している。

自分の信念を一番前に持ってくるには、自分で何かをやるしかない。名都子氏は、給料はいらないから、小さな個人店に修業へ入ろうと考えていた。

「東京に好きなベーグル屋さんがあるんですけど、人気が出すぎて、元々あった小さなカフェスペースをなくして全部テイクアウトにしちゃったんです。それがちょっと残念で。だったら給料はいらないし、家賃を払うから、その場所でベーグル屋さんのカフェとして何かやらせてくれないかって。」

そこで、達也氏は別の選択肢に気づいた。

「3年経って転職するってなったときに、正直どれぐらい貯まってるのって聞いたら、それなりに貯まってて。ちょっと待って、カフェ開けるよ、って。」

名都子氏の返事は「いやいや、それは無理。」だった。

達也氏の背中を押したのは、もうひとつの出来事だった。結婚して2年ほど経つまで、達也氏は名都子氏の“ライフワーク”の話を聞いたことがなかったのだ。

「聞かれなかったから」と名都子氏は笑う。

そこから達也氏は率直に語る。

「背中で語ってるような感じで、すごく力を入れて頑張ってるのが見えるから、そういう意味でリスペクトはしてたんです。でも、信念をちゃんと言葉として持っていたっていうことに、僕はすごく感動して。」

名都子氏は、自分の場所を持つのは子育てが終わったあと、40代か50代でいい、と考えていた。達也氏はそこに異を唱えた。

「描いていた未来は絶対に変わってくる。そのライフワークを実践する場所が、将来だとつくれないかもしれない。今チャレンジする意味と価値は、絶対にあると思ったんですよ。」

それでも名都子氏は迷った。妻として夫を支える役割も果たしたい。自分ばかりが前に出ていいのか。達也氏は、こう考えた。

「もし彼女が独身やったら、何も気にせず、独力でその舞台を実現できていたはず。それが夫である自分のせいで実現しなくなるかもしれない、見過ごせない。」

名都子氏も考えに気づく。

「旦那がいるからできない、っていうのは、応援したいのに足かせになってるみたいで嫌やったんです。」

ブレーキを、無理やり外した。親族に反対されても気にしなかった。ふたりは物件を探し始める。

神戸は、最初の候補ではなかった。

「東京に住んでいたので、最初は都内や横浜近辺で考えたんですけど、個人でお店を持つには、とてもお金がかかる。そこまでのリスクを取るよりは、開業資金をやりくりできる範囲で、関東以外でもいいから現実的なところで、と。」

達也氏は兵庫県西宮市の出身で、名都子氏は愛媛の出身。学生時代から、実家に帰るついでに神戸へ立ち寄っており、もともと好きな街だったという。

「15年前って、今みたいなカフェ文化はあまりなかったんです。神戸でも有名なカフェはいくつかありましたけど、個人経営だと、カフェというより老舗の喫茶店が多くて。今はだいぶ個人のカフェも増えましたけど。自分たちのお店としてカフェをやるなら、カフェ文化があるところじゃないとなかなかできないなって。」

神戸に目星をつけて探すうち、今の物件に出会った。

「転職と引っ越しと開業、全部一気に。3年で退職することに合わせて、全部まとめてやった感じですね。」

2011年4月、カフェ ケシパールが開店した。


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目に入るもののほとんどが手づくりという「カフェ ケシパール」




2.こだわっていること

店内の目に入るもの、全てにこだわりがある。その理由は分かりやすい。

当初の計画は今と違い、名都子氏がひとりで店を開き、達也氏は神戸で別の仕事に就くつもりだった。物件も、ひとりで回せる小さな路面店を探していた。

「小さい路面店で、ここやったらひとりでいけそうやな、っていうところがあって。そこでしちゃおうって思ってたんです。」

ところが、今の物件が気になった。ひとりで回すには広すぎる。家賃も、自分たちで決めた上限を超えていた。それでも惹かれた理由は、ふたりが好きだった「カフェ」の姿にある。

「15年くらい前の個人経営のカフェって、クセの強いところが多くて。オーナーさんの色がすごくあったじゃないですか。それぞれのカフェで、ある意味ひとつひとつ文化が違ってて。」と名都子氏は言う。

また達也氏の楽しみ方もあった。

「扉をくぐるときに、どんなカフェなんだろうっていうわくわく感があって。入ったら、カリスマ性のあるオーナーさんのこだわりだったり、ちょっと非日常な刺激のある空気感だったり。その人の感性みたいなものがあって、それを味わいに行く。僕らはそういう場所としてカフェを楽しんでいたんです。」

思い返せば、ふたりが好きで通っていたカフェにも、階段を上がった先にぱっと開けた空間がある店があった。

「通りすがりにふらっと入るというよりは、調べて、わくわくしながら来てくれる。そういうところは想定していたかもしれません。」

店づくりは、DIYだった。当時はまだ若く、資金もあまりない。業者に頼んでお金をかけて改装する余裕はなかった。そして何より、自分たちでこだわりたい部分があった。

棚もパーテーションも、達也氏が設計して組み立てた。床板を張ったのも自分たちだ。テーブルもベンチも、キッチン側にある小屋のような見た目をしたカウンターも、壁や天井まで手が入っている。

ただし、最初からこの形だったわけではない。

「最初は、ぎりぎり開業できるくらいのレベルのDIYで。営業しながら、もっとこうした方がいいよね、っていうのを作ったり、作ったものを作り直したり。それを大体3年くらい。」と名都子氏が楽しげに語る。

最初の3年は、ふたりで営業とDIYを並行させた。

「だから、いろんなものにすごく思い出とか愛着があるんです。」


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温もりのある空間は落ち着いたひと時が過ごせる



メニューブックも手づくりだ。開業時はリングノートに手書きしたもので間に合わせた。営業しながら、こういうページにしたい、と少しずつ作り変えていった。いまは名都子氏が描いた絵と文字で構成されている。

そのメニューブックの冒頭には、こんな言葉が綴られている。

「私がこのケシパールで大事にしていること。それは、ケーキでも珈琲でも、本当はカフェそのものでもない。そして、『美味しい』でも『おしゃれ』でも、そして『静かな時間』ですらもない。笑顔で笑顔を作ることによって、この場所から、少しずつ、世界が明るくなっていくこと。」

「あなたがこの場所を出たとき、来たときよりも元気で、来たときよりも笑顔で、来たときよりも世界が明るく優しく見えるような、そして、次に出会う誰かを笑顔にするようなエネルギーが蓄えられているような、そんな経験になってくれることこそが、私たちにとっての幸せ。」

この場所を通じて「笑顔で笑顔をつくることの連鎖」を実現すること。ケシパールでは、それを「ケシパライズ」と呼んでいる。

ケーキでも珈琲でもない、と書く。けれど、そのケーキと珈琲にかける手間は並大抵ではない。

珈琲は、開業5年目から東京の堀口珈琲の豆を使っている。それまでは神戸の老舗の焙煎所と付き合ってきたが、自分たちが求めるものが高くなり、次のステージに進もうと考えた。

評判の豆を飲み回り、東京にも足を運んで、とにかく豆を買い集めた。先入観が入らないよう前情報はあえて入れすぎず、試飲はブラインドで行うほど公平に。そのなかで、ダントツで豆の質が高いと感じたのが堀口珈琲だった。以来、焙煎所には何度も見学に訪れている。

「ロースターに入って、まず目に入るのは焙煎機ではなく、豆の選別作業だったりします。生豆の輸送、選別、保管など、通常の焙煎所では考えられないレベルで、品質に対してあらゆることを泥臭く真面目に、コストとエネルギーをかけて取り組んでいる。華やかなイメージのある世界ですけど、やっていることは本当に緻密で、真面目で、まともで、ある意味、理系的なんです。」

豆は、カフェ ケシパールで常時7?8種、スタンドでは10種以上をそろえる。どの店でも、客が選んだおやつに合わせて相性のいい豆をスタッフが選ぶなど、組み合わせごと楽しめる頼み方を取り入れている。

看板のチーズケーキも、最初からたくさん出すつもりはなかった。開業当初はランチもあり、スコーンも出していた。

「実は、チーズケーキ自体は私にとって、数あるおやつの中で特段好きなものでもないし、特別得意なものでもなかったんです。」

それでも選んだのには理由がある。ひとつのジャンルのなかに、レアもベイクドも、スフレもNYスタイルもある。5年ほど前からはバスク風も加わった。そこへどんな食材を合わせるかで、季節の味も、組み合わせも、いくらでも広がっていく。

「毎日同じお店に通ってくれる人が、同じものを同じように選ぶという楽しみ方は、私も大好きです。ただ、作り手側としては、同じ場所だけど、その日によって違ったものを楽しめる。日々の移ろいや季節の変わり目、私のその時々の思いつきが、メニューとして反映できるような形にしたかったんです。」と名都子氏は言う。

そもそもミルクと砂糖でできているから、珈琲との相性もいい。開業当時、チーズケーキを主役にするカフェはまだ少なかった。新しい味は、日々の営みのなかから生まれてきた。

「あのお客様と柿が好きだって話で盛り上がったから、いっちょ作ってみるか。こないだもらった外国のお土産のレモンとホワイトチョコが独特で美味しかったから、アンサーとして作ってみるか。お客様を描きながら、楽しみながら創作してきたところがあります。」

やがてチーズケーキ目当ての客が増えると、変わり種ばかりでは期待に応えきれない場面も出てきた。そこで開業4年目に、ようやく「ザ・チーズケーキ」をつくった。食感と味わいと香りの移り変わりを、飲み込んだ後の余韻まで計算し、数えきれないほど試作を重ねた、こだわりづくめの一品だ。


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コーヒーの香りとチーズケーキの優しい味わいが心にしみる



いまは、スタッフにもチーズケーキを作ってもらっている。名都子氏の役割は、味の再現性や管理に力を注ぐことにも広がった。その反動もあって、スタンドではもっと身軽に、思いつきをそのまま形にしている。

「市場で見かけたこのいちじく、こういう形でアレンジしてスコーンサンドにしたい。明日は、こんな形でロールケーキにしよう、みたいに。小回りが効くというか、私のやりたい放題やらせてもらってます。お客様は日々メニューを追いかけるだけでも大変でしょうし、仕込みや提供もしてくれるスタンドのスタッフは、もっと大変かなって思ってます(笑)。」

店には、いくつかのお願いがあり、こう添えられている。お客様同士にも心遣いが感じられるような、優しくて温かな雰囲気を何より大切にしております。

笑顔で笑顔をつくる、は店から客へ、だけの話ではない。客から客へも、気持ちのいいものが渡っていく場所であってほしい。その思いが、このお願いの形になっている。

石言葉の「ひとときの休息」についてのほか、店内に飾られたドライフラワーから、名都子氏は都忘れという花の話をしてくれた。佐渡に流された順徳上皇が、この花を眺めているあいだだけは都への思いを忘れられた、と伝わる花である。ここで過ごす時間が、誰にとってもそういうひとときであってほしい。その想いもひとつのこだわりとなっている。



3. スタッフとの関係で大切にしていること

開業4年目から、スタッフを雇い始めた。いまは10人ほど。スタッフは「ケシメイツ」と呼ばれている。

人を雇うようになって、名都子氏はもどかしさを抱えるようになった。思うようにいかないことも、たくさんあった。

2018年、メニューブックの冒頭に「ケシパールのおはなし」を載せた。幼いころから大切にしてきたこと、店として目指していることを、言葉にして掲げたのである。それまでは、あえて表に出してこなかった。

「実際にやろうと思っても、うまくいかないことは日々ありますし。それを掲げてやるのは、ちょっと違うなって思ってたんです。」

「でも、だからこそ、ここで掲げて頑張るぞって。表現することに意義があるかもしれないと思って。選手宣誓みたいなイメージで載せさせてもらったんです。」

また達也氏は、スタッフとの関係をこう説明する。

「お手伝いさんとして働くわけじゃなくて、ケシパールで働く上では、みんなが、ポジティブな影響を与えることで世界を平和にする、っていう志を持った人として働いてほしいということを常々伝えています。」

業務の指導はもちろんする。ただ、大事にしているのは、その先の“人として”の部分だ。

「仕事としてつながってるっていうよりは、価値観と心で同じことを目指して、同じことに喜んで、同じことに悲しんで。家族みたいな感じです。自分の子どもたちに、相手の人が気持ちいいような振る舞いをするんだよって言うのと、一緒なんです。」

だから、採用の基準ははっきりしている。面接では、店が大切にしていることを最初に話す。それを聞いて辞退する人もいる。

応募される方は、客として店を気に入ってくれた方も多い。だからこそ、伝えておくべきことがある。

「お客さんはポジティブなエネルギーを受ける側ですが、ケシパールで働くとなると、自分たちが発信源になるということ。作る側に回ったとき、やりがいを感じられるのか、頑張れるのか。そこがめちゃくちゃ大事です。」と達也氏は一線をひく。

「普通とは、ちょっと違うかもしれません。熱いものがあると思います。自分たちで綺麗事を言っているだけでは終わらない、一貫性を持っているつもりなので、スタッフもそれに共感してくれる人でないと務まらないなと、感じます。そういった重い使命を背負いつつ、笑顔で頑張ってくれるスタッフたちには本当に感謝しています。」

3店舗目のケシパールスタンドも、スタッフとの関係から生まれた店だ。

コロナ禍で思うように店を開けられない日が続き、名都子氏もスタッフのことを考えていた。

「経営者としては、雇用調整助成金を初めとするサポートは本当にありがたかったです。第2子も妊娠中だったりで、逆にのんびり過ごすチャンスとして満喫はできました。でも、当時のスタッフからすると、色々制限と闘いながら我慢して働いても、緊急事態宣言でまた休み。再開しても、また我慢しながらの営業。さらに変なことは、休んでても働いても給料はもらえる。一体何してるんだろう自分、ってなるじゃないですか。それを何かうまく解消してあげたいなって。」

当時、スタッフの中に「自分の店をやりたい」という人がいた。

「せっかく時間を持て余してるんだから、もったいない。うちらが、やってあげられることがあるんじゃないかって。」

常連客のことも気がかりだった。しばらくは来られない、と挨拶に来てくれた人がたくさんいた。反対に、店がなくなってしまうかもしれないと、あえて足を運んでくれる人もたくさんいた。

「何かいい方法はないかなって、すごく考えて、考えて。お持ち帰りができる店を作ったら、何かまたできることがあるかもしれないって。」

場所を変え、業態も変えた3店舗目。持ち帰りもできる。スタッフにとっては、店を一から立ち上げる経験にもなる。2021年秋、湊川神社のそばでケシパールスタンドは始まった。

当初は、スタッフに任せる店として思い描いていた。しかし、事情が重なり、最終的には名都子氏自身が店に立つことになる。2人目の子どもも生まれ、子育てをしながら、この場所で続けていけるのか。続けるか、やめるか。迷っていたときに見つけたのが、いまの小野柄通の物件である。

「子育てしながら店を切り盛りする上では、すごくいい場所で。保育園も行き来しやすいし、何かあったときにすぐ駆けつけられる。私がやるって腹をくくったんだったら、もう移転しちゃえって。」

2024年3月、2年半営業した湊川神社そばの店を閉じ、同年7月、ケシパールスタンドは再び扉を開けた。DIYの余地はたっぷりあった。

「お金はないけど、こうやりたいってなったら、自分でやるしかないんです。」と達也氏は待ち望んでいたように話す。

「このくらいのサイズの、この生地のクッションが欲しいなと思っても、世の中にないんですよ。作るしかない」

定番のキャロットケーキのマフィンに、季節の果物を合わせたスコーンサンドやシフォンケーキサンド。焼き菓子が並ぶカウンターの奥には、常時10種以上の珈琲豆がある。おやつに合わせて豆を選べるのも、この店の楽しみ方だ。いまは木・金・土の週3日、名都子氏がカウンターに立つ。

名都子氏は店のインスタグラムに、こう書いていた。ケシパールは全店、「我が家にお客様を招いているイメージ」なのだと。


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開放的な空間が心地よい「ケシパールスタンド」




4. 印象に残るお客様とのエピソード

ケシパールが入るビルの9階「ケシパルーフ」は、常連客のためにつくった店でもある。

ケシパールが混み合う土日。常連客は、席に着いてまだ間もないのに急いで食べて出ていった。行列ができていると、ほかの人を入れてあげて、と席を譲る。行列がビルの階段の下まで伸びることもある。常連客が、週末に来づらくなってしまった。

二人は思い悩んでいた。

そして、同じビルの9階に“はなれ”をつくった。

元は事務所物件で、床にコンクリートを流すところから始めた。図面を引いたのは、達也氏。トイレも自分たちで取り付けた。スタッフに「DIYをやりたい」という人もいたこから、一緒に手を動かしてくれた。

「作りかけの店だけど、お披露目を兼ねて、そして超秘密の隠れ家カフェとして営業させてもらいました。まだ未完成の店舗に常連さんが来て、今日はここができてるね、そこができてるねって。」

正式オープンは、2階の6周年と重なった。名都子氏の出産の時期とも重なっていた。そのとき訪れた客に、メッセージをたくさん書いてもらった。書いてもらった面を内側に向けて、カウンターの側面に仕立てた。客席側は黒板として使っている。メッセージは今も、カウンターの裏側に残る。

「お客様の思いを抱えたカウンター、っていう感じで。すごく大事にしています。」

同じく、ケシパールスタンドが移転する際にも、常連様にメッセージを書いてもらった扉がそのままケシパールスタンドの内装に使われているとのこと。

そして、名都子氏が「もうひとつ」と切り出した話がある。

「日々のことで。15年やってきて、自分たちのポジティブな気持ちで目の前の人をポジティブに、っていうのをずっと真面目にやり続けてきて。」

「通い始めたころ大学生だった子が、大人になって、結婚して、しばらく見ないなと思ったら子どもを連れて来てくれたり。大学生のときに友達と行ったカフェのひとつだったはずなのに、就活で悩んでたときに私たちと話した、ひと言があったから、今がありますって言ってくれたり。」

「お母さんが三宮で働いていて、そのころ小学生だった子どもが大学生になって。お母さんが通ってたカフェがすごく良かったって聞いて、来てくれたり。」

「時代を超えて、ケシパールがいろんな人の人生に組み込まれていて。つながりをちゃんと感じられる場所だったんだなって。それに触れたとき、やっててよかったなって思うんです。」

達也氏は、それを“地元の喫茶店”にたとえる。

「田舎の、地元の喫茶店でしかできなそうな、深い社会的なつながりみたいなもの。それを、この神戸に外からやってきた僕らがやったお店で作れた、しかもお客様は近隣の人ばかりでもないっていうのは、すごくやりがいというか、いいなって思います。」


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スタッフとお客様への想いから生まれた「ケシパルーフ」




5. これからやってみたいこと

やりたいことの方向は2つ。どちらもまだ具体的ではない、と前置きしたうえで、まず、やらないことをはっきりとした。

「店舗を増やすことはしない。自分たちが関わりながら回せる範囲は3店舗までだなって。」

「増やすのであれば、のれん分けみたいな形ですね。」

まず、ひとつ目は、もっと自由にやること。

「例えば、コーヒーのテイスティングみたいなセミナーを、時間制の予約でやるとか。今は子どもがいて全然できないけど、そういう細かいアイデアはいっぱいあるんです。」

「二人でやってた頃は、営業時間のこの時間はちょっと特別な時間にしよう、っていう思いつきが、そのまま、特別な営業になったりしてたんです。」

「静カフェ」をはじめ、木曜と土曜の夜には、音楽の音量を少しだけ上げる「ケシオト」の時間もある。週ごとのテーマを決めて選曲しているのは、達也氏だ。

ふたつ目は、ケシパールの価値観を言葉にすること。

「名都子のライフワークを、これまではカフェっていうもので、接客を通じて、背中で語るように実践してきたんです。そうじゃなくて、カフェを開いて大事にしてきたこととか、スタッフと向き合う中でわかってきたことを、もうちょっと具体的に、言葉に落とし込んで突き詰めていきたい。」

達也氏が持ち出したのは、幸せの“持続”という定義だった。

「美味しいものを食べて幸せって言うじゃないですか。でもそれって、長続きしない幸せだったりするんですよ。お店での体験が終わって、普段の状態に戻ると、ハッピーな気分が続かない。」

「カフェを通じてポジティブな影響を与えたとして、どうやったらそれが持続するんだろうって。社会的な動物である人間は社会的な本能が満たされたときに幸福感を感じる。人とのつながりとか、社会の中での自分の立ち位置とか。カフェも社会の一部として、そこを満たしてあげられるんじゃないかって。そこをもうちょっと言葉にしていきたいなと、思っています。」


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多彩に揃うドリンクはチーズケーキと合わせて楽しめる




6. この街(神戸)への想いを聞かせてください

「神戸って、不思議な街なんですよ」と達也氏は言う。

「観光地っぽさが、あまりない。神戸は神戸として、街として完成してるんです。それが、洗練された不思議な魅力になっていて。そこにあやかって、カフェを開かせてもらったんですけど。」

ただ、開業してからの数年は、街を楽しむ余裕がなかった。

「娯楽は一切なし。カフェを頑張る、寝る、カフェを頑張る、みたいな感じで。」

変わったのは、子どもが生まれてからだ。

「子どもにとっては、神戸がふるさとになるじゃないですか。だから神戸を楽しませなきゃいけない。神戸市民として初めて神戸を満喫しようと。」

「こんないいとこ」と、名都子氏も改めて気づく。

「三宮はすごく栄えていて都会ですけど、エリアによっては住宅地だったり、グラデーションのようにカラーがある。山もあるし、海もある。」

「空も広くて」

「住むエリアによって全然違う。でもそれって、住むエリアを選べるってことじゃないですか。自分にとって居心地のいい場所を選んだら、すごく住みよいし、ある程度、神戸で完結してるんで。大阪に出ることがないんです。レジャーで兵庫県の北部にはよくには行きますけど。」

「子どもにとっても、ふるさとだし、僕らにとっても、ある意味ふるさとみたいな感じ。神戸のことが大好きで、神戸でカフェを開かせてもらってよかったなって。」

西宮で育った達也氏にとって、10代のころの三宮は、買い物や映画を見に来る場所だった。

「高校生の頃は、遊ぶなら大阪に行った方がいい、くらいに思ってました。でも住んでみて、その魅力というか、懐の深さというか。年々、街そのものへのリスペクトみたいなものを重ねています。特に震災からの歴史もそうだし、ここに住まわせてもらって、商売をさせてもらってることもそうだし。たまに登る摩耶山から街を見下ろしたときに、神戸を見渡した時に感謝せずにはいられないんです。」

達也氏は子供のころに阪神・淡路大震災を経験した。

「当時小学生だったし、被災地から離れているから、断水程度しか被害はなかったです。でも、当時の大変さは子供ながらリアルタイムで感じてました。困難な状況から、街も神戸の方々も、震災のことを忘れずに前を向いてすごく頑張ってきて、今の神戸があると感じるタイミングがたくさんあります。そんな場所にお邪魔してカフェを開かせてもらった自分たちは、この神戸の日々に感謝しかないです。」

ビルの階段を上がり、扉を開ける。自らの手で張った床板と、組み上げた棚、週替わりのチーズケーキ。そこで過ごした「ひとときの休息」が、店を出たあと、すれ違う誰かへの気持ちのいい挨拶になる。名都子氏が小学生のときに見つけた小さな連鎖は、15年のあいだに、学生だった客が親になり、その子の手を引いて、もう一度同じ階段を上らせるまでになった。笑顔が笑顔をつくる。ふたりで手づくりした店は、言葉を言葉のまま終わらせない場所として、これからも幸せな笑顔が紡がれていくのだろう。


フースタ関西|【神戸特集vol.20】三宮「カフェ ケシパール」笑顔で笑顔をつなぐ。手づくりした店の15年続くひととき。



■店舗情報

店名:カフェ ケシパール(CAFE KESHiPEARL)

オーナー:西山 達也

所在地:〒651-0087 兵庫県神戸市中央区御幸通6-1-25 ももの木三宮ビル2F

TEL:078-203-1396

オープン:2011年4月

営業時間:月〜水 11:00〜19:30/木 11:00〜21:00(19:00〜ケシオト)/金 17:00〜21:00(静カフェ)/土 13:30〜21:00(19:00〜ケシオト)/日・祝 11:00〜19:30 ※2Fの時間。金・土・日・祝は9Fケシパルーフも営業。最新情報は公式サイト・Instagramでご確認ください

定休日:不定休

アクセス:JR三ノ宮駅から徒歩約10分(磯上公園そば)

業態:カフェ

主なメニュー:ザ・チーズケーキ/気まぐれチーズケーキ/チーズケーキと珈琲のマリアージュ/ケシパールブレンド ほか

備考:予約・テイクアウトは原則不可

https://cafe-keshipearl.com/

https://www.instagram.com/cafekeshipearl/

 

店名:ケシパルーフ

所在地:カフェ ケシパールと同じビルの9F

オープン:2017年

営業時間:金 11:00〜19:30/土・日・祝 9:30〜18:00

メニュー:カフェ ケシパールと同じ

 

店名:ケシパールスタンド

店主:西山 名都子

所在地:〒651-0088 兵庫県神戸市中央区小野柄通3-2-23 スタンダードビル1F

オープン:2021年(湊川神社そば)/2024年7月 現在地へ移転

営業時間:木・金・土 9:30〜18:00

定休日:日〜水

アクセス:カフェ ケシパールから国道2号線を東へ徒歩約5分(中央消防署向かい)

主なメニュー:キャロケマフィン(キャロットケーキのマフィン)/スコーンサンド/シフォンケーキサンド/月替わりのバスク風チーズケーキ(店内のみ)/焼き菓子/プリン/トースト/珈琲(常時10種以上) ※一部の焼き菓子はテイクアウト可

https://www.instagram.com/keshipearl.stand/



Instagram:https://www.instagram.com/_celery_kobe/

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