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【神戸特集vol.19】 花隈「celery」言いわけのできない店をつくる。野菜を主役にワインを添えて。

阪急花隈駅から北へ。小さな公園の正面に、赤煉瓦とタイル、緑の丸い窓が特徴的な一軒「celery(セロリ)」。2025年10月26日にオープンしたカウンター席も備える10席ほどの店だ。開けるのは14時。まわりは昼の営業が終わり、夜の店はまだ開かない時間。その空白に、ここの灯りがつく。メニューの主役は野菜で、ナチュラルワインに合わせる。厨房に立つのは倉本菜摘氏。調理の専門学校を出てから十数年。神戸の飲食店を渡り歩き、初めて自分の看板を掲げた店への想いと、これからを伺った。


フースタ関西|【神戸特集vol.19】 花隈「celery」言いわけのできない店をつくる。野菜を主役にワインを添えて。

celery 店主 倉本菜摘氏



1. お店を始めたきっかけ

料理人になる夢が先にあったわけではない、と倉本氏は言う。

「お店を持ちたいとか、夢は特になかったんです。お母さんの手伝いをするのが好きで、小さいときから。」

「進路を決めるとき、好きなことをしよう、みたいな。軽い感じです。」

進んだのは、調理の専門学校である。2年制で、1年目に和洋中をひと通り学び、卒業と同時に調理師免許が取れる課程。そこに、もう1年を足した。

「追加で1年行けるってなって、西洋の、フランスとイタリア両方を専攻するコースにもう1年行って。」

就職先の選び方には、らしさがすでに出ている。

「お店の雰囲気的には、個人店が良くて。大体は企業かホテルのような組織で働くか、個人店で働くかっていう二択なんですけど。私は個人店の方がよくって。そこで接客も学べる環境を、と。」

「あとは食べに行って、気に入ったお店に問い合わせたっていう感じです。」

狙っていたのはピッツェリアだった。

「ピッツェリアで、そこで働きたかったんですけど。店舗を5つ持っている会社だったので、希望の店には配属してもらえなくて。」

配属されたのは、自社でパンの生地を仕込むビュッフェレストラン。厨房にも接客にも立った。

「右も左もわからず、とりあえず働いたっていう感じです。」

そこから先は、神戸を転々とした。最初の会社で2年。その後は朝にカフェ、夜は知り合いの紹介で尼崎のピザ屋。イタリアンを展開する会社に正社員として5年「そこが一番、いろいろやらせてもらいました。」

そして洋食「パリス」を展開する会社で3年半ほど勤める。

「パリス」は2022年12月、神戸・布引町に開いた洋食店だ。「1922年にオランダ系日本人の祖父が開いた洋食店を、創業100年にあたる年に三代目の孫が復活させた」という来歴を持つ。もっとも、その来歴はコンセプトとして作られたものである。

「全部が作り話になってるんですけど、そういうコンセプトが社長の中にあって、中身も一緒に作らせてもらった。」

立ち上げから入り、料理長も務めた。そこから独立へ向かうのだが、もともと独立志向があったわけではない。

「独立願望はなくて。シンプルに考えたかったっていう。何か、よくわからなくなったんですよ。」

「お客さんが来てる理由とか、来ない理由っていうのが。」

「組織にいると、働く人数も多いし、わからなくなって。どこをどう伸ばして、とか。」

「それを明確にしたかったというか。」

そして、こう言った。

「言いわけできないように、全部自分の責任でお店をやってみたいなっていうのがあって、始めました。」

店の名前は、自分のあだ名から。そのあだ名の出どころが、少し変わっている。

「山崎まさよしさんの『セロリ』を、飲みの場で適当に歌ってたんですけど、その動画があって。」

「それが間違って、会社のグループLINEに流れて。」

まだ送信の取り消し機能がなかったときである。店舗も何軒かある会社だった。

「すごい噂になったんですよ。」

こうして、あだ名が本人より先に歩き出した。

「名前がちょっと先に広まっちゃって。でも覚えてもらいやすいし、女性のニックネームとしてはインパクトがあって、結構広がってたので。店の名前にしようと。」

物件は、元は鉄板焼き屋だった。

「結構ごちゃごちゃしてましたね。調味料が散らばってたり、新聞がたくさんあったりとか。」

いまの店内に、その面影はない。設計は友人に頼んだ。

「設計をやってる友達がいて、その子にお願いして。物件を一緒に見に行ってもらって。」

「空間としては理想があったので、イメージをその友達に伝えて、一緒に考えて作りました。」

窓は元からあったものを残した。色は二人で決めた。緑、店名とも合っている。立ち上げそのものは、一人で始まった。


フースタ関西|【神戸特集vol.19】 花隈「celery」言いわけのできない店をつくる。野菜を主役にワインを添えて。

赤煉瓦とタイル、緑の丸い窓枠が目印になる「celery(セロリ)」




2.こだわっていること

メニューの主役は、野菜である。その理由は二つあり、一つは動機、もう一つは理屈だ。

動機は、倉本氏の育った背景にある。

「地元が垂水なんですけど、家から5分のなかにコンビニや、ファミレスがあるようなところで育ったんです。」

「料理してる側としては、それがコンプレックスでした。」

「料理人さんは、やっぱり山で山菜を摘んだりとか、身近にそういう環境があって。私のおばあちゃん、おじいちゃんも田舎には住んでなくて。」

「そういうのが、ちょっと引っかかる部分がありました。」

「直接、味わえるような美味しい食材を知らずに育ってきたんです。スーパーの食材だと、収穫されてから時間も経ってたりするんで。」

それが覆ったのは、20代前半のことだ。仕事とは関係なく、友人に連れられて農家を訪ねた。

「そのときに、アスパラガスを採れたてで、生で食べさせてもらったのが衝撃で。」

どう違ったのか。

「甘かった。甘くて柔らかくて、皮を引かなくてよくて。」

神戸の地野菜を使わせてくれる会社もあった。

「仕入れた野菜を、なるべく手を加えずに提供したりするお店だったんですけど。そこでも野菜の美味しさに衝撃を受けて。お客さんにもそれが伝わったらいいなっていうのはあります。」

そしてもう一つ、理屈となる。野菜を主役にしたのは、ワインに合うからだ。

「安くて、ワインに合う。葉野菜は、その清涼感が白ワインに合ったりとか。」

「野菜だけでも赤ワインはいけるし、調理法、蒸すとかでも変わったりするんですけど。根菜系はけっこう変わります。」

「そういうのも面白いなって思ったんで。」

「お肉だけじゃなく、一番身近で手に取りやすいもので、ワインを飲んでもらえる。」

おすすめは、店名と同じ名を持つ一皿。「セロリのレムラード」である。

「レムラードっていう料理があるんですけど、これはフレンチ定番のもので。マヨネーズとハーブで和えてます。」

「フランスだったら、本当は根セロリのセロリラブっていう野菜を使うんですけど、あんまり日本ではなくて。スーパーに置いてないので、それをセロリで対応して。」

チーズは、神戸市にある弓削牧場のものを使う。赤ワインに寄せるときは、季節の一皿がその役を担う。

「今はナスのカポナータで、トマトを使ってるんですけど。冬はレンコンを使ったりとか。」

メニューは倉本氏が一人で考える。

「急に食材がなくなったりするんですよ。買い物に行くと今日はこれでいかないと、っていう感じです。」

「ベースは変わってないですけど、メニューも徐々に変えていってます。毎日、市場や店を見に行ってるんで。」

「この野菜ピークやな、みたいな。いつも見てます。」

魚料理もある。

「市場には入ってなくて。魚屋さんが商店街にあるんですけど、いまはそこに行って教えてもらってます。」

魚の皿でも、狙いは変わらない。

「なるべく野菜がしっかり取れるようにソースを作ったり。その日の魚で変えたりもして。野菜でお酒を飲んでもらえるよう、工夫してます。」

ワインは基本的にナチュラルワイン。セレクトは、付き合いの長いワインショップに委ねている。

「今はワインショップさんにおまかせでセレクトしてもらってて。付き合いの長い方がいるんで、料理の感じもわかってくれてて、お店に合わせて持ってきてくれてるんで、その中から選ぶって感じです。」

「産地はイタリアとフランス、ドイツ、オーストリアが多いです。」

そして、特徴的な営業時間である。開店は14時。ランチはやらない。

「ランチは特にやってなくて。14時から、昼飲みでやってます。」

「14時は開いてるお店があまりなくて。」

誰のための時間なのか。答えは、自分の経験から出てきた。

「ランチに間に合わない人が来られるような。あと、飲食店の人って、平日はちょっとゆっくり起きたいんですよ。夜が遅いんで。」

「自分基準ですけど。そういう休日でも、フラッとここに来てから、今日は何しようかなって考える時間っていうか。」


フースタ関西|【神戸特集vol.19】 花隈「celery」言いわけのできない店をつくる。野菜を主役にワインを添えて。

主役は野菜。店名と同じ名を持つ「セロリのレムラード」




3. スタッフとの関係で大切にしていること

開店からしばらくは、一人営業だった。スタッフが入ったのは今年の5月からである。きっかけは、予約を断ったことだ。

「断るしかなかった予約もあって。でも、もったいないなと思って。手伝ってもらうことにしました。」

いまは平日が一人、週末にアルバイトが一人という体制だ。

「3人ぐらい入ってくれたんですけど、今はメインが1人と、月に1回か2回の子が1人っていう感じです。」

採用は、知り合いから。

「元々知り合いの子が手伝ってくれてるので。」

任せ方には、はっきりした方針がある。

「その子に応じた仕事の振り方というか。あまりストレスにならないようにしています。」

その裏には、組織で働いていた頃の実感がある。

「私は結構、気を使うタイプだったんで。」

「シンプルにお客様と接してほしい。」

「自分で考えて、思ったようにやってほしいなって。基本的には『こうしていいですか』と言われたら、『何でもいいよ』って。」

もう一つ、この店だけの基準がある。ワインの知識を問わないことだ。

「ワインは別に知らなくても大丈夫です。」

理由は、スタッフではなく、客の側にある。

「お客様も知らないスタッフの方が安心するというか。」

「『知らなくても来ていいよ』みたいな感じで思ってもらえるとありがたい。」

「お店の人にワインの説明を力強くされても、わからないじゃないですか。」

だから、店としての立ち位置もそこに置く。

「そういう位置づけでありたいです。お店的には、ワインを知らなくても来てもらいたい。」

また接客の分担は、動線で決まっている。

「料理を一生懸命作る日は、そちらに追われてるんですけど。カウンターの方とは話したりします。テーブル側は、アルバイトの方に接客してもらったり。」



4. 印象に残るお客様とのエピソード

いま、客を呼び込んでいるのはインスタグラムである。

「インスタグラムを見て、ここまで来てくれるお客さんも結構多くて。」

「いまは投稿したものがワーッと広がっちゃって。ちょっと今、店が独り歩きしてる状態です。」

この「独り歩き」は、放っておいた結果ではない。意図して作っている。アカウントに、倉本氏本人はほとんど出てこない。

「あんまり人を出さないようにして、お店にお客さんがつくようにしてます。」

「料理、空間で、お客さんがついてくれたらな、みたいな。」

客層はこうだ。

「年齢層は20代前半の方もいますけど、30代40代が割と多くて。女性の方が多いです。」

そこに、もう一つの層が重なる。近隣に住む方々である。

「近所の方が、雨の日に来てくれたりとか。」

雨の日、というのが面白い。外に出る日ではなく、出ない日に選ばれているということだ。

「このあたりに住んでる人は、結構この辺で飲んで終わるのが多いみたいです。」

月に一度のペースで通う人もいる。共通しているのは、ワイン好きであること。

そして、思いがけない遠来の客もいる。店のロゴを手がけたデザイナーのファンだ。

「ロゴを作ってくれた人が有名な方なんですけど、その方のファンも韓国から来てくれたりします。」

デザイナーは神戸出身で、いまは高松に住み、韓国でも仕事をしている人だという。倉本氏は以前から興味を持っていて、間に入ってくれる人を介して依頼した。この店の顔になっている「胃袋」のイラストも、そのひとつだ。

「胃袋は、私は指定してなくて。」

「『野菜を扱った料理とワインの店がしたいんです』ってその方に言ったら、胃袋のイラストを出してくれた。」

カウンターでの会話は、料理やワインの話にはあまりならない。

「好きな店の話とか。よく行くお店の話がメインです。」

そこでよくする質問がある。「この辺(花隈)に来られますか」と。

「聞いたときに、やっぱり来たことがないっていう人が多いんで。名前は何となく知ってるけれども、っていう。」

だからこそ、手応えは売上以外にもある。

「そういう人たちに、花隈に来てもらえるきっかけを作れてる、と思うと。」

「嬉しいですね。」


フースタ関西|【神戸特集vol.19】 花隈「celery」言いわけのできない店をつくる。野菜を主役にワインを添えて。

カウンターを中心に10席。窓の外に見える小さな公園も雰囲気に溶け込む。




5. これからやってみたいこと

2年目に向けて、一番に挙げたのは規模の話ではなかった。

「一番は、地域密着で、近所の方から愛されるような店にしたいです。」

その次に出てきたのが、産地との距離である。

「いまは時間がないんですけど、落ち着いたら農家さんに来てもらったりとか。野菜を直接買えたりとか、できたらいいかな。」

「もうちょっと野菜に特化できるように、自分が畑に足を運んだり。」

資格の話も出た。

「野菜ソムリエの資格にも興味があって。」

なぜ資格なのか、と聞く。答えは接客面にあった。

「説得力に繋がると思うんで。」

「ワインの資格も持ってないんで。もうちょっと深めていきたいっていうのはあるんですけど。」

ただし、深めることと、敷居を上げることは違う。

「深めたいんですけど、来にくい店にはしたくない。」

店舗展開は、考えていない。

一方、この店を誰かに開くことは、前向きだった。発想の出どころは、前職である。

「前のパリスの会社が、結構スタッフを育てる会社やったんですけど。そういう思いはあって。」

「挑戦したい人がいれば。ここで何かやりたい子がいたら、全然やってもらってもいいなみたいな。」

昼の時間に誰かが間借りをする、という形なら現実味がある。

「そうなったら、そういうやり方があってもいいかなみたいな。」

理由は、自分の店のためだけではない。

「いろんな人が関われば関わるほど、お客さんも増える。」

「1人でやるよりは、いいかなと。」



6. この街(神戸)への想いを聞かせてください

街でよく使われる一言から始まった。

「狭いって、みんな言ってるんですけど。私もそう思う。」

ただ、その一言も受け取り方次第だという。

「なんか、それがネガティブに聞こえるときがあって。どちらとも取れるんですけど。」

そのうえで、倉本氏が見ているのは、外から来た人の反応と、同世代の動きだ。

「旅行客で来られた方は、めちゃくちゃ神戸が好きな方が多いんで。」

「最近は同じ年代の人でも、地方から来て神戸で仕事してる人が、目立ってて。」

「これから注目される、じゃないですけど。何かその可能性はあるなって思います。」

ここで倉本氏は、店の外に話を移す。

「県外からも人を呼べたらいいな、みたいな思いはあります。お店を良くするのは大事なんですけど、自分がやっぱり外に出ていかないと、県外の人たちって来てくれないんで。」

「もうちょっとコミュニケーションを取りに行って。友達に会いに来てくれる感覚で、お店にも来てもらう方が、なんかわかりやすいかなって。」

手応えの裏には、繰り返し言われてきた言葉がある。

「『神戸、行かないです』ってよく言われるんです。」

「旅行で店員さんと話したりして、『行かないですね』って結構言われるんです。大阪、京都はみんな割と行くんですけどね。」

先日は名古屋にも行った。そこでも、神戸はあまり知られていなかった。だから、出ていくときは一人ではない。

「仲良くさせてもらってる方がいるんですけど。」

「何人かで外に出ていって、大阪の方とも仲良くなって。多分そっちの方が、注目度は増す。」

「外に向けても、動いていきたいです。」

2025年10月、鉄板焼き屋の跡に、10席の店が開いた。メインは野菜とワイン。目印は、デザイナー提案の胃袋のイラスト。店主の名は、ひょんなことから広まったあだ名である。どれも、本人が狙って設計したものではない。それでも、この店には一本の筋が通っている。組織にいると、お客さんが来る理由も、来ない理由もわからなくなる。だから倉本氏は、言いわけのできない場所に自分を置いた。仕入れも、その日の品書きも、開ける時間も、スタッフへの任せ方も、すべて自分の判断として10席に返ってくる。花隈に来たことのなかった人が、この小さな窓の前で足を止める。店主が一番うれしく思うときは、自分の店が褒められたときではなく、その瞬間かもしれない。





■店舗情報

店名:celery(セロリ)

店主:倉本 菜摘

所在地:〒650-0013 兵庫県神戸市中央区花隈町27-5 グリーンハイツ花隈1F

TEL:070-9155-4629

オープン:2025年10月26日

営業時間:14:00〜21:00

定休日:火曜日+不定休

席数:10席(カウンター、2人掛けテーブル2卓)

業態:野菜料理とワインの店/ワインバー

アクセス:阪急花隈駅より徒歩3分、地下鉄県庁前駅・みなと元町駅より徒歩6〜8分、JR元町駅より徒歩9分

支払い:カード可、電子マネー可、QRコード決済可(PayPay)

Instagram:https://www.instagram.com/_celery_kobe/

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