JR元町駅の北側、北長狭通に、1991年創業の炭火焼鳥「小鳥舎はなひげ」がある。その目と鼻の先に、2025年4月、焼酎100種類でスタートした立ち飲み「炭 ゔぁる原」が開いた。さらに同じタイミングで、18年続いたスペインバル「カサ・ペケーニョ」も新しい店主を迎えてリニューアルオープンする。この3軒は幹隼大氏が代表を務める店舗でもある。学生時代のアルバイトから飲食の世界に足を踏み入れ、8年前に「小鳥舎はなひげ」を引き継いだ。そして新しい2軒の店長はどちらも、はなひげにいたスタッフでもある。任された二人の店長と共に同じ通りに並ぶ3軒の店づくりと、この街への想いを伺った。
1. お店を始めたきっかけ
幹氏の飲食業界への第一歩は焼鳥屋から始まった。
「もともと大学生ぐらいのときからアルバイトをしていた焼鳥屋があって。アルバイト時代も含めて、そこで16年ほど勤めたんです。」
次のキャリアをどうしようかと考えていた頃。「小鳥舎はなひげ」前任の店長が退職するという話が持ち上がる。1991年創業、当時では既に30年に迫る歴史を持つ店だ。長くこの店を率いてきた方から、フランチャイズのような形でやってくれないかという提案があった。
「僕がいたのは焼鳥屋で、あまり自分たちで色々な料理をする店じゃなかったので、『何もできないですよ』と言ったんです。焼鳥は焼けるけど、と。」
それでも、経営をさせてもらいながら修業もさせてもらう、という形で店を引き受けた。今年で8年になる。

趣のある看板と赤ちょうちんが目印となる「小鳥舎はなひげ」

受け継がれてきた味が魅力の焼鳥(小鳥舎はなひげ)
引き継いでから数年が経った頃、アルバイトとして入ってきたのが熊野氏だ。やがて社員になり、店を支える存在になっていく。能力のある人間だということは、幹氏にはよく分かっていた。
「きっといなくなるな、と。だからまずは『店を作るからね』という約束をしたんです。」
熊野氏も、その時の記憶がある。
「はなひげで働き始めて5、6年になりますけど、3年目ぐらいのときから、営業中や仕込み中にちょこちょこ話をしていました。今後の僕のキャリアとして店を作るからね、みたいな感じになって。どういう店がやりたいか、というのを喋りながら。」
焼酎はずっと好きだった。幹氏も好きだった。話しているうちに、輪郭が見えてくる。
「焼酎に結構スポットライトが当たっているなと。大阪では焼酎の店が流行っているイメージもあったんですけど、三宮ではそんなに多くない。じゃあ、とりあえず焼酎が100本並ぶ店をやろうかと。」
もう一つの軸は、牛とホルモンに決まった。幹氏の同級生がホルモンの卸をやっている、という縁がある。すでに焼鳥屋があるのだから、すぐ近くに同じ店があっても面白くない。そうして2025年4月17日、「炭 ゔぁる原」が生まれた。
幹氏にとっては、ゼロから生み出した一軒目でもあった。
「打ち出しとか、認知してもらうために何をしたらいいのかというのは、できる限り一緒に考えました。でもそれ以上に、自分で新規に出す1店舗目として、いろいろと追われすぎていて。」
一方の熊野氏に、不安はなかったのかと聞くと、幹氏もいるのでそこまで不安はなかったと語る。
「ずっと座りの店で働いていたので、立ち飲みになるとまったく変わる。お客さんが来る人数も違うし、あんまり想像もついていなかったので、とりあえずやってみようと。」
そして、オープンしてからも忙しく、余裕がなかったことも逆に良かったのだという。
「1ヶ月目とか、どうしようって悩む暇もなく、オープンしてからはもう休みなしでずっと走っていて。毎日毎日、営業を回すのに必死でした。」

北長狭通に灯る立ち飲み店「炭 ゔぁる原」
その「炭 ゔぁる原」を立ち上げている最中に、もう一つの話が飛び込んでくる。すぐ近くのスペインバル「カサ・ペケーニョ」を継がないか、という打診だった。
2007年に開業し、神戸の立ち飲み文化の先駆けとも言われてきた店である。幹氏の頭には、任せたい人の顔が浮かんでいた。
「女性店長であの店をやりたくて。イメージした中に、冨田が強い候補でした。」
冨田氏との縁は、幹氏が以前働いていた焼鳥屋までさかのぼる。冨田氏が高校生だった16歳のころ、初めてのアルバイト先として働いていた店でもある。その後、働き先は変わりながらも、長い付き合いが続く。
オファーを受けたときの心境を、冨田氏はこう振り返る。
「料理もお酒も人も好きで、飲み屋をやってみたいという野望は持っていたものの、働いたこともないスペインバル・立ち飲み。18年続く店をいきなり継ぐ、となるとプレッシャーはかなりありました。」
それでも、天秤の反対側に載るものが多かった。
「駅から2分の立地、理想的なサイズ感、好みの内装と空間。この話を逃したら、きっとわたしは後悔する。後ろ盾に隼大さんがついてくれることも背中を押し、人生規模の力試しだと思って、ワクワク好奇心のままに引き受けました。」
2025年4月5日、彼女が30歳になる日に、店は新しい暖簾を上げた。「炭 ゔぁる原」のオープンと同じ時期のことである。まずはオープンしたばかりの「炭 ゔぁる原」の現場に1ヶ月ほど入り、そこから引き継ぎを経て、カサ・ペケーニョへ。
「本当に、ほぼ並行して走り出しました。」と幹氏が笑う。同じ通りに3軒。この距離感が、そのまま3店舗の関係にもなっている。
「お客さんの中には、もちろん3店舗全部行ったことがあるよ、という方も多いです。でも、それぞれのカラーが違うので、繋がっているのを知らない方もいらっしゃると思います。」

18年続いたスペインバルを引き継いだ「カサ・ペケーニョ」
2.こだわっていること
「炭 ゔぁる原」の強みは、まず数字で分かる。100種類で始めた焼酎は、いま150種類まで増えた。
「焼酎を置いていても、20種類ぐらいというお店が多いと思うんです。焼酎がたくさんある、特化したものが一つあるというのは、うちの強みになるのかなと。」
一方、料理については「こだわりすぎない」という言葉を選ぶ。立ち飲みだからこそのこだわりだ。
「こだわるところはしっかりこだわるし、丁寧にやるところはちゃんとやる。でも、できる限り早く提供できるように。ご飯をガッツリ楽しんでいただきたいというよりも、来たときに空間的にストレスがない、という感じの方がいい。」
「あそこに行けばめちゃくちゃ楽しい、というよりは、なんかついつい長く居てしまう。フラットに使いやすい、という感じにしたいなと。1軒目にも使えるし、ご飯をたくさん食べても美味しいし、2軒目で来ても3軒目で来ても楽しい。使う幅を広げられるように、ちょうどいい空間をどうやって作れるかなというところで、細かいところに気を使っています。」
距離が近い立ち飲みだからこそ、接客も設計の一部となっている。
「絶対に、来た人と1回は何かしら会話をするように、というのはスタッフにも伝えています。この距離感で無言だったら、やっぱり怖いですし。」
「来た瞬間、最初の、一歩目のアクションを大事にしています。」

100種類から始まり、いまは150種類ほどが並ぶ焼酎。(炭 ゔぁる原)

焼酎と合わせても美味しい牛ホルモン串。(炭 ゔぁる原)
一方、冨田氏の答えは決まっていた。居心地である。
「もちろん料理もお酒もこだわっています。でもそれは上には上がいる。わたしもお酒が好きなので、わかるんです。勝手に足が向くお店の共通点は、居心地の良さだなと。」
抽象的に聞こえるかもしれない、と前置きしたうえで、実際にやっていることは緻密だという。手がかりは、店名にある。カサ・ペケーニョは、スペイン語で「小さなおうち」。
「我が家に招いたような親しみをもって。こちらも楽しむ。『この空間だから生まれる豊かさ』のようなものを感じられる場所であるように。みんなの求めているもの全部すくい上げて応えたい、わたしのポリシーの範囲で。」
だから、言葉を選ぶ。
「『またお待ちしています』の意だけでも、何通りも使い分けています。できる限り、そのひとの心に残る言葉選びをしたいなって。」
自分のやっていることは「接客」という枠に収まらない、という感覚もある。
「きっと『接客』と呼ぶ以上に対人意識が強くて、フランクさの中で敬意と感謝を握りしめて、愛をぶつけてるって感覚です。ずーっと、つい帰ってきたくなるみんなのお家でいたいです。」

内装との親和性も高い料理とワイン。(カサ・ペケーニョ)
そこから幹氏は、はなひげで大切にしていることとして、接客の「方向性」の違いという話があがった。
「うちは店員と喋るより、料理と、それこそ仲間内やお二人で来られた方の会話をゆっくり楽しんでもらうことの方が多いので。接客の方向性がちょっと違うんです。どちらかというと、心地いい空気作りですね。」
立ち飲みが2軒、座って食べる炭火焼鳥が1軒。同じ通りで役割を上手く分け合っている。
3. スタッフとの関係で大切にしていること
熊野氏が掲げるものは二つある。
「一つは、毎日同じテンションというか、同じ状態でいるということ。その日の状態とか自分の体調とか、そんなことは関係なく、毎日同じ状態でいる。」
もう一つは、任せることだ。
「性格的に、これをやったら失敗するな、これだったら違うな、というのがついつい先に言いたくなるんです。でも、そこで一つ待って、失敗したら失敗した後にカバーすればいい。その失敗から学ぶことの方が多いと思うので。とりあえず何も言わず、任せてやってもらうようにしています。」
得意分野ではないんですけど、と率直に付け加えた。
「今までずっとできていたわけじゃなかったので。こういう立場になって、そうしていかないといけないな、と」
また冨田氏の答えは、ひとつのことわざだった。
「親しき仲にも礼儀あり、です。これは個人的ではあるのですが、誰に対しても大事にしていることのひとつです。」
いまカサ・ペケーニョを支えているのは、やっと見つかった右腕となるレギュラーのアルバイト1名。あとは同級生や前職で一緒に働いていた仲間、系列3店舗を回るアルバイトが週末に手伝いに入る。ほとんどが気心の知れた身内のような関係性だ。
「わたしたちもかなり風通しよく、隼大さんにも寄り添ってもらえていて、スタッフの方たちも頑張り屋のいい子ばかりで。こんな職場あるんか?というくらいには、とんでもなく人間関係に恵まれていると感じています。だからこそ長く互いに笑い合えるように、親しき仲にも礼儀ありを継続していこうと思います。」
育成については、こう語る。
「得意を伸ばす、というのは結構意識しているところで、苦手な点は自分が補えばいいやという考えでやっています。のびのびやってもらうことを大前提に。やっぱり楽しそうにやっているお店の方が、みんなも応援したくなると思うので、楽しくやってもらうことを第一に考えています。」
そして幹氏である。彼にとって、いまの状況そのものが挑戦だと言う。
「1店舗で自分の管理下で人を育てることは、今までたくさんやってきました。でもそれを、自分がいない場所で、自分が任せた人間にやってもらう。今は本当に、自分にとっても挑戦です。」
現場に立たない、というのは徹底している。「炭 ゔぁる原」に入ったのは最初の1、2ヶ月ほど。カサ・ペケーニョについては、一度も中に立ったことがないという。
「サイズ感的に無理なんです」と冨田氏が笑う。カサ・ペケーニョのフロアは4坪ほどで、スタッフが立つ場所も3軒の中では、いちばん狭い。
今どういう状態で、何が気になっているのか。アドバイスは日頃より行っている、と幹氏は言う。ただ、その先に見ているものは少し違った。
「僕の遺伝子みたいなものを、もうちゃんとしっかり持ってくれているので。伝言ゲームは彼らを通したら、次のスタッフにどういうふうに派生していくんだろう、この子らがどういう組織を作っていくんだろう、というのを楽しみに見ています。」
4. 印象に残るお客様とのエピソード
「炭 ゔぁる原」の客層は、年齢もばらばら、男女もほぼ半々だという。若い人ばかりの店ではなく、中心は30代あたり。そして、少し意外な傾向がある。
「意外と、女性が焼酎好きなんですよね。」
男性は決まったものを選ぶ傾向にあるが、女性はラベルでも楽しんでくれる「これがかわいい」「あれがかわいい」と一本ずつ吟味する。150本並んでいることが、そのまま楽しみとなる。
また熊野氏は競馬が好きということもあり、同じ趣味のお客様も多いと言う。
「めっちゃ競馬好きなお客さんがいて。土曜の夜とか、競馬好きだけで店の手前が全部埋まることもありますよ。」
今日はどうやった、明日はどうやと言い合い、「なんか教えてくれへんか」という相談まで飛んでくる。
「いや、でもこれじゃないですか、とか言って。そしたら次の日にまた来て、『取れたわ』って。」
「面白い人が多いですね。」

距離の近さが、そのまま会話に繋がる。(炭 ゔぁる原)
カサ・ペケーニョの客層は、20代から60代まで。男女は半々、年齢の中央値は「炭 ゔぁる原」よりも少し高いそうだ。それでいて、世代を越えた一体感があるのだという。客同士のコミュニティも自然にできていて、無理強いをするような人はもちろんいない。
冨田氏の心に残るお客様との会話がある。
「『ペケに通うひとたちって、暗いわけではないんだけど、なんか原色っていうよりスモーキーカラーって感じだよね』って言われて、やたら腑に落ちました。」
「我こそはスモーキーカラーという方は馴染み良いかと。色で表してくれるのもなんだか素敵だな、うちらしいなと思って。」
対人第一の接客が功を奏したのか、類は友を呼ぶ状態になっている、と彼女は笑う。
「こんな髪色して言うのもなんですが、わたし自身もスモーキーカラー側の人間と自負していて、集うみなさまもそんな風。トーンが近しいおかげで、お客様同士の交流も穏やかな秩序ある空気感だと思います。」
そして「オタクに優しいお店です」と、明るい表情でこう付け足した。

モダンな雰囲気のなか多彩な話題で楽しめる。(カサ・ペケーニョ)
一方、小鳥舎はなひげのお客様は、時間の単位が違う。
「立ち飲み屋さんはふらっと行けるので回転数も多いんですけど、うちみたいな座りの店だったら、月に1回来られたら結構な常連さんという頻度です。1年に1回とか、年末にいらっしゃる方もいて。」
だからこそ、扉が開いた瞬間に長い時間が戻ってくることがある。
「初デートがここだった、というご夫婦がいらっしゃったりもします。『まだあったんや』と言って来られて。」
幹氏が入って8年。引き継ぐとき、彼は一つの線を引いている。引き継げるところは引き継ぎながら、長く通ってくださっている常連さんに頼りきらなくてもいい店にしていこう、と。1991年から続く屋号は、そのまま次の時間へ渡されている。
5. これからやってみたいこと
熊野氏がまず口にしたのは、他県からも来てもらえる店にしたい、ということだった。
「僕たちも飲み屋を探すとき、大阪に店があるからそこに行きたいな、という感じで動くんです。そういう感じで、神戸の人だけじゃなくて、他県からもそこを目がけて来ていただける人をたくさん作れるような店にしたい。なんか面白そうなことをやっているな、と注目される店にできたらなと思います。」
そのために、いま取り組んでいることがある。
「働いてくれているスタッフみんなの底上げというか。一人一人がもっともっと強くなっていく。お客さんと話したりすることもすごく多いので、そういう力が付いたらいいなと。それがそのまま、お客さんが来てくれることに直結するかなと思っているので。」
冨田氏の「やってみたいこと」は、まず音楽から始まった。
「音楽が好きなので、音楽フェスやイベントに出店してみたいです。好きと好きの融合なんて、もうハッピーですから。」
そして、まだ未来の話だと前置きしつつ、二号店の構想もあるという。
「現在はお店まるっと継承していただいた為、次はゼロから生み出してみたいななんて夢も抱いています。現実はいまやっと階段一段登ったくらい。まずは目の前のことから順番に、知識もたくさんつけて学んで、みなさんに喜んでもらえるような形にしていきます。」
その先の設計図を持っているのが、幹氏だ。秋には熊野氏の次のステップが控えており、それが一段落したら冨田氏の次の展開を考えるという。
「カサ・ペケーニョはやっぱり歴史を引き継いでいる店なので、より冨田らしいお店を、その次に展開することをイメージしています。」
その場合、スペインバルという業態にはこだわらない。
「しっかり、お酒とご飯を提供するお店としての顔と、ちょっとカルチャー寄りの方向性と、この2軸でやっていきたくて。」
そして幹氏には、もう一つ、外に向かう構想がある。
「焼酎がこんなにたくさんある中で、蔵元さんともっと仲良くなったり、九州から作り手さんを呼んでお話ができたりとか、そういう機会を作れたら。」
すでに具体的な話も動いている。仙台の立ち飲み店「ベロン」とのコラボレーションだ。
「たまたま僕らが向こうに行ったんです。それも別々に行って。そのとき精力的にやられている店があって、せっかくなので行き来しましょうかという話になりました。11月に僕らが向こうに行って、2月に向こうがこっちに来る。今、段取りをしています。」
その狙いは、神戸というブランドを外から見てもらうことにある。
「神戸っていうブランドイメージを、しっかり自分らで高めていきながら、いろんなエリアからもっと欲しがってもらえる、面白がってもらえるようなお店とかプロダクトを作っていけないかなと思っています。」
一方で、はなひげについての答えは、まったく違う色をしていた。
「あの店は、あの店として、良くも悪くも変わらない。ずっと続けていくことをイメージしています。」
続けること自体が目的だという。
「あの店の歴史を続けていくことが、僕にとってはお世話になった方への恩返しでもありますし。この店があるから、暇を持て余さない。余計なことをしなくて済む、みたいなところもあるんです。」
6. この街(神戸)への想いを聞かせてください
三人のうち、二人は神戸出身で一人は愛媛から出てきた。
熊野氏の出身は、愛媛県四国中央市。19歳になる年に兵庫へ出てきて9年、神戸に暮らして6、7年になる。
「愛媛の田舎の方なんで、神戸っていう響きだけで、すごくでかくて広くて深いんだ、みたいなイメージで出てきたんです。」
ところが、住み始めると印象は逆に振れた。
「全然違うな、いい意味で狭いなという。横の繋がりも距離感が近くて良い関係性だし、すごくでかいと思っていたのが、逆に狭い。住みやすい街だなという感じです。」
飲食の人もそうだし、お客さんもいろんな店に行っている。プライベートで飲みに行っても、誰かしらに会う。
「出勤して『この間見たよ』みたいな感じで言われることもあるので。そういった関係性は魅力があるなと。」
そして、生まれ育った街を語る冨田氏の言葉は、はっきりしていた。
「これは褒め言葉のつもりなのですが、神戸ってちょうどいいんです。栄えている度合いや人の数、距離感なんかも独特な気がしていて、他人のままではあるけれど温かいが成立するような。」
店を始めてからは、別の「ちょうどよさ」も見えてきた。
「飲食店の密度が高く、競合店が多いと言えばそうなのですが、横のつながりも深いので、互いに勧め合うような関係性を築けるのもいいところだと思っています。」
ライバル店というよりは、こういうときはここに行ったらいいんじゃないか、と心の底から勧め合える。その分、狭い街だと感じる場面も多い。
「よく、ここら一体を三宮村とふざけて表現したりしています。」
それでも、愛着は揺るがない。
「生まれ育った街なので愛着があり、地元民とのローカルトークも楽しいし、なにより好きな街でだれかの居場所をつくれることに喜びを感じています。うちから神戸を盛り上げるぞ!ほど大それたことは、まだよー言わんけど、神戸の外から来た方にもこの良さを伝えられる場になれたらいいな、楽しく優しい思い出の一部になりたいなと日々、思っています。」
これからの神戸に望むことを尋ねると、ひとつだけ、相反する気持ちを明かしてくれた。
「ちょうどいいとは言ったんですけど、もっと栄えて欲しいという気持ちもあるので。より良い人たちが集まれるような場所、三宮とはまた違ったローカルの中でも良いお店ばっかり、みたいなエリアになる。そのうちの一つになれたらなと思っています。」
最後に、幹氏である。神戸で生まれ、43年。
「もちろん愛着のある場所だし、20歳ぐらいのときに近くで働いていたこともあって。当時の良さと今の良さは違うものだとは思うんですけど、憧れていた大人たちの年齢に自分がなってきて、動かせるものがちょっとずつ変わってきて。」
そのうえで、この街の性質を分析する。
「二人も言っていたように、狭いという印象は僕ももちろんありますし、やっぱりプライドも高い。内々でちょっと収まってしまいがちな街なんです。」
だからこそ、あえて考える距離感がある。
「ちょうどよく、みんな仲良くしながら、でも別にそこまで馴れ合わない関係が、きっといいと思うんです。神戸というバックにとらわれない。」
蔵元との交流、九州の作り手、仙台との行き来。その全部が、内側で完結しないための仕掛けだ。
「神戸というブランドイメージを、しっかり自分らで高めていきながら、いろんなエリアからもっと欲しがってもらえるようなお店やプロダクトを作っていけたら。」
「そんなん、夢はでっかく、みたいな話ですけど」と笑いながらも、着実に歩は進んでいる。
北長狭通3丁目、同じ通りに3軒。1991年から続く炭火焼鳥、150本の焼酎が並ぶ立ち飲み、18年の歴史を継いだ「小さなおうち」。業態も客層も、店に流れる時間の速さも違う。共通しているのは、幹氏がアイディアを預け、店長がそこに自分の色を乗せているという構造だ。
「僕の年齢的に、自分がこんな店をしたいというのはもうあまりないんです。でも、面白いなと思うアイディアはたくさんあって。それをスタッフのフィルターを通して完成形にできたら面白い。」
熊野という人間が立つ店を想像したから、焼酎とホルモンの立ち飲みになった。冨田という人間に任せたから、18年続いた店が新しい「みんなのお家」になった。次に生まれる店は、まだ誰にも見えていない。ただ、その色を一番楽しみにしているのは、たぶん幹氏なのだろう。
■店舗情報
炭 ゔぁる原
店名:炭 ゔぁる原
住所:〒650-0012 兵庫県神戸市中央区北長狭通3-1-1 トアロード山下ビルアネックス
アクセス:JR元町駅・神戸市営地下鉄「旧居留地・大丸前」駅より徒歩3分/阪神電鉄元町駅より徒歩4分
営業時間:17:00〜24:00/定休日 火曜日
オープン:2025年4月17日
予算:¥2,000〜¥2,999
席数:立ち飲み(店内電子タバコのみ可)
お支払い:カード可(VISA、Master、JCB、AMEX、Diners、UnionPay)/電子マネー可/QRコード決済可(PayPay)
特徴:焼酎約150種類、牛ホルモン串・炭火焼
Instagram:@kobe_valhalla(https://www.instagram.com/kobe_valhalla/)
https://tabelog.com/hyogo/A2801/A280102/28073059/
カサ・ペケーニョ(casa Pequeno)
店名:カサ・ペケーニョ(casa Pequeno)
住所:〒650-0012 兵庫県神戸市中央区北長狭通3-1-4 ツタニビル1F
アクセス:JR元町駅より徒歩約2分/神戸市営地下鉄「旧居留地・大丸前」駅より約210m
営業時間:17:00〜24:00/定休日 火曜日
創業:2007年(2025年5月6日リニューアルオープン)
予算:¥2,000〜¥2,999
席数:立ち飲み(フロア約4坪/カウンターあり)※全席禁煙
TEL:078-321-0870
特徴:モダン・スペインバル。店名はスペイン語で「小さなおうち」
Instagram:@casacasapequeno(https://www.instagram.com/casacasapequeno/)
https://tabelog.com/hyogo/A2801/A280102/28006821/
小鳥舎はなひげ
店名:小鳥舎はなひげ(ことやはなひげ)
住所:〒650-0012 兵庫県神戸市中央区北長狭通3-1-4 ツタニビル1F北側
アクセス:神戸市営地下鉄「旧居留地・大丸前」駅より約220m/JR元町駅より徒歩約3分
営業時間:18:00〜23:00(L.O. 22:00)/定休日 日曜を含む不定休
創業:1991年
予算:¥4,000〜¥4,999
席数:20席(カウンター9席・テーブル11席)
TEL:078-334-2454
特徴:愛媛の熊やん地鶏・丹波地鶏を紀州備長炭で焼き上げる本格炭火焼鳥。継ぎ足しのタレ、おでん。
Instagram:@kotoya_hanahige(https://www.instagram.com/kotoya_hanahige/)













