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【大阪特集】心斎橋、三津寺の隠れ家、『貝と海老そして蟹』オーナーシェフ・中村宏氏が歩んだ独立への道。目の前の一皿に込める「体験」という哲学。

子供のころから、ご実家のお手伝いを通して料理が身近にあり、高校時代のアルバイトで料理の楽しさに目覚めた中村宏氏。辻調理師専門学校を経て、心斎橋の老舗イタリアン「イルソーレ」で8年、市場の魚屋、居酒屋、スペイン料理店……様々な現場で腕を磨いた後、独立支援制度を持つ企業との出会いを経て、2020年に念願の「自分の店」を手にした。コロナ禍という逆風の中で選んだのは、コスパの良い居酒屋から、活オマール海老を看板に据えた特別な日に選ばれる一軒への転換だった。目の前のお客様に向き合い続けるその哲学を伺った。


心斎橋、三津寺の隠れ家、『貝と海老そして蟹』オーナーシェフ・中村宏氏が歩んだ独立への道。目の前の一皿に込める「体験」という哲学。

オーナーシェフ中村宏氏



1. きっかけ

長野県塩尻市の出身。料理の手伝いは好んでしていたという中村氏。ただ、その頃は料理を仕事にするという発想はまだなかった。転機となったのは、高校時代に始めたロイヤルホストでのアルバイトだ。最初はホールを経験し、「キッチンを手伝って」と声がかかったことをきっかけに、調理の面白さにのめり込んでいく。店舗での仕込みが多い環境で、素材の下ごしらえから提供までを一から任せてもらえたという。「お客様の声が直接届くわけではなかったが、クレームがないということは喜んでもらえているということ」。そう気づいてからは、お客様がどう感じているかを自然と意識するようになった。仕込みから提供までを一貫して経験できたことも重なり、料理を仕事にする決意を後押しした。

進学先に選んだのは、大阪の辻調理師専門学校。地元では進学率がほぼ100%という進学校の出身で、大学進学という選択肢も当然あったが、「大学で学びたいこと」が見つからなかったという。当時「料理界の東大」というキャッチコピーに惹かれたことも、この専門学校を選んだ理由のひとつだった。そして在学中の研修旅行で訪れた水の都・ヴェネツィアで初めて食べたオマール海老が、今も忘れられない原体験になっているという。

卒業後は心斎橋のイタリアン「イルソーレ」で8年勤務。その後、市場の鮮魚店、居酒屋、スペイン料理店などで経験を積み、独立支援の仕組みを持つ企業と縁がつながる。かつて心斎橋で働いていた頃からの知人を通じて再会し、「雇ってください」と自ら声をかけたことから、その企業のもとで店舗運営に携わることに。数店舗を展開するグループの一店舗の運営を任され、その後は業務委託契約を経て、2020年2月、自分の店を持つに至った。


心斎橋、三津寺の隠れ家、『貝と海老そして蟹』オーナーシェフ・中村宏氏が歩んだ独立への道。目の前の一皿に込める「体験」という哲学。

温かみのあるカウンター



心斎橋、三津寺の隠れ家、『貝と海老そして蟹』オーナーシェフ・中村宏氏が歩んだ独立への道。目の前の一皿に込める「体験」という哲学。

席路地の奥に佇む店構え




2.こだわり

自分の店を持ったのは、奇しくも新型コロナウイルスの感染拡大が始まる直前のことだった。それまではコストパフォーマンスの良い居酒屋業態で、客単価はおよそ3,000円。しかし「今後は外食の回数自体が減り、家で食べる機会が増えていくのではないか」という予測から、普段使いよりも「晴れの日」に選ばれる店へと舵を切った。カウンターの席数を8席から6席へと絞り、特におすすめのメニューを集めたコース料理を用意し、店の在り方そのものを変えていった。

看板となるのは「極上鍋で作る活オマール海老のハーブ蒸し」。貝と海老、蟹が入った特製ポテトサラダやカニクリームマカロニグラタンなど、一つひとつの仕込みに手間を惜しまない。「食事としてというよりは体験を提供して、それに対する対価を頂く」。目の前の一皿に込める思いを、中村氏はそう言葉にする。

ワインは基本的にグラス販売で、不活性ガスを使ってワインの劣化を防ぐ機器を導入することで、赤・白・オレンジ・ロゼまで幅広い銘柄をグラスで提供できる体制を整えている。コースにはペアリングも用意し、一品ごとにワインを合わせる提案も行う。

根底にあるのは、「外食を通して人生を楽しむ人を増やしたい」という思いだ。

中村氏は、料理を提供するだけではなく、その日という一日が人生の思い出として残る時間を届けたいと考えている。

「人生のサムネイルを、一緒につくる。」それが、同店のミッションだという。



3. 二人三脚で紡ぐ店

現在、店は中村氏と奥様の二人で切り盛りしている。奥様とは、公私にわたり支え合う関係だ。「仕事中はどうしても甘えてしまう部分がある」と笑いながらも、「持ちつ持たれつ」の間柄を大切にしている様子がうかがえた。

SNSでも息の合った二人の様子が伝わり、見る人の心を温かくしている。人を雇って組織を大きくするより、身近な人と手の届く範囲を大切にする。そんな二人三脚の在り方が、この店の空気をつくっている。


心斎橋、三津寺の隠れ家、『貝と海老そして蟹』オーナーシェフ・中村宏氏が歩んだ独立への道。目の前の一皿に込める「体験」という哲学。

オーナー中村氏と奥様が笑顔でお出迎え 




4. 印象に残るお客様とのエピソード

業態転換後は価格帯が上がったこともあり、以前ほど頻繁に通う常連客は多くないという。その代わりに増えたのが、誕生日や結婚記念日など「年に1〜2回」の特別な機会に訪れる客層だ。「1年に1回、家族で来てくださる方もいる。すごく嬉しい。」年齢層は幅広く、比較的若い世代のカップルも、コースを利用して特別な時間を過ごしていく。

AIを活用し海外の方にもお店を紹介する地道な取り組みの継続によって、海外からの来店も少なくない。ホームページ経由のメール、InstagramのDMなど、多様な経路で予約が入るという。ご来店の際には英語メニューも備えて対応している。



5. これからやってみたいこと

「1年後、3年後、5年後」を明確に描くタイプではないという中村氏。「一番大事なのは、目の前にいるお客様にちゃんと満足してもらうこと」という言葉どおり、まずは今の一皿、今の一組に集中する姿勢を崩さない。

多店舗展開は考えておらず、店を大きくするとしても、自分の目の届く範囲で、もう少し広い一軒をと考えている。人を育てて店舗網を広げるより、自らお客様と向き合い続けることを選んでいる。

また最近では、料理や接客に感動したお客様が自由な気持ちで応援を伝えられるよう、チップの仕組みも取り入れている。

海外では一般的な文化だが、中村氏は「代金とは別に、その日の体験への『ありがとう』を表現できる場所」として考えているという。

「人生のサムネイルを、一緒につくる。」という店のミッションに共感した来店客から、応援の言葉とともにチップが寄せられることも少なくない。



6. この街への想い

お店があるのは、心斎橋筋商店街や道頓堀のにぎわいから、路地をひとつ入った三津寺筋。その名の由来である三津寺という古い寺が今も静かに佇む、大阪のど真ん中でありながらどこかほっとする一角だ。喧騒のすぐ隣にありながら、扉を開けると時間の流れが変わる。そんな路地の奥に、この店はしっくりと馴染んでいる。

中村氏が見据えるのは、「大阪で、より多くの方が外食を通して人生を楽しめるように」という思いだ。そのために磨き続けたいのは、料理の腕だけではないという。

「お客様に喜んでもらうために、自分自身の人間性を磨いていきたい。」

その言葉どおり、中村氏が向き合っているのは料理だけではない。

外食という時間そのものを、人生の思い出へと変えていくこと。

「人生のサムネイルを、一緒につくる。」

そんな想いが、一皿一皿に込められている。


心斎橋、三津寺の隠れ家、『貝と海老そして蟹』オーナーシェフ・中村宏氏が歩んだ独立への道。目の前の一皿に込める「体験」という哲学。

極上鍋で作る活オマール海老ハーブ蒸し



心斎橋、三津寺の隠れ家、『貝と海老そして蟹』オーナーシェフ・中村宏氏が歩んだ独立への道。目の前の一皿に込める「体験」という哲学。

貝海老風ナポリタン 



心斎橋、三津寺の隠れ家、『貝と海老そして蟹』オーナーシェフ・中村宏氏が歩んだ独立への道。目の前の一皿に込める「体験」という哲学。

ムール貝の黒コショウ風味 



心斎橋、三津寺の隠れ家、『貝と海老そして蟹』オーナーシェフ・中村宏氏が歩んだ独立への道。目の前の一皿に込める「体験」という哲学。

海老のカナッペ





■店舗情報

店名:貝と海老そして蟹(Shellfish,Shrimp&Crab)

住所:大阪府大阪市中央区心斎橋筋2-7-11 日宝ロイヤルビル 1F

アクセス:各線なんば駅 徒歩5分/地下鉄心斎橋駅 徒歩5分

営業時間:12:00〜17:00/17:00〜01:00(22:30最終入店) 
※ランチは1日1組限定の予約制(3日前までに要予約)

定休日:不定休

予算:¥10,000〜¥14,999

席数:6席(カウンター6席 ※貸切時は8席まで)

WEBhttps://tabelog.com/osaka/A2701/A270202/27070654/

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