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特集インタビュー 株式会社スパイスワークス 代表取締役社長 下遠野 亘

飲食に特化していつも新たなバリューを生み出してきたスパイスワークス。「飲食にまつわる全て」を知り尽くす同社が手がける最新業態とその強さの理由を探る!

馬・鶏・豚・牛など、素材に特化し、それぞれを窯や炉端、鉄板などの最適な調理法と組み合わせて、それまでの市場やお客様の舌の記憶にない、新たな価値や食文化を作り出す。オーナーの想い、生産者の想い、街の声に真摯に耳を傾けることで、見逃されてきた魅力を掘り起こし、既存店を甦らせる。創業10年にして全国に28業態62店舗という躍進ぶりと、その独特の手腕に注目が集まる株式会社スパイスワークス(東京都港区)。同社代表取締役社長 下遠野亘氏に、店舗デザインの特長やこだわり、今後の展望についてうかがった。


—下遠野さんのルーツとも言える、飲食に転身される前の“建築時代”のお話を聞かせてください。

スパイスワークス もともと絵を描くことも、モノを作ることが大好きでした。建築関係の専門学校へ進学し、在学中にアルバイトしていた建築工務店にそのまま入社したんです。今で言うところのインターンシップですが、実際のところは“小僧の下積み”だったので、延々、白模型を作る日々。忙しくて、寝袋を持って現場に泊まり込むこともしょっちゅうでした。就職した後も多忙な日々は変わらず、飲食やアパレルの内装や設計をやりたくて建築業界に入ったのに、大工さんをたくさん抱えて、数寄屋建築を手がけるようなガチガチの会社(笑)に入っちゃったから、やりたいことがなかなかできなくて。現場監督作業ばかりでした。だけど、当時は何も分かっていなくて、これが建築の世界では当たり前なんだと思っていました。

おかげで、設計だけでなく、企画もデザインも内装も職人さんの手配も、すべて自分でできるようになりました。だから、今でも施工が得意なんです。その後、有名な飲食店も手がけさせてもらい、ようやく自分のやりたかったことができ、「自分にはやっぱり【飲食×建築】だな」と感じるようになっていきました。


—建築工務店での下積み経験が、今に生かされているわけですね。

スパイスワークス ただね、当時、ようやくスタートラインに立てたのに、悩んでしまったんですよ。周りを見渡せば錚々たる建築家ばかり。自分との実力差を感じたというか。限界を感じたんです、そのとき。要するに、挫折です。そこで、いったん建築の世界からは抜け出し、飲食店で働くことにしました。

国内だけでなく、ローマやシドニーでも修行を積んで、戻ってきたのが11年前。確固たるクライアントもなく独立したのですが、1号店の「仕事馬」をオープンさせました。当時はまだ日本に馬肉という素材に対して馴染みが薄かったので、馬肉専門店という珍しさと他にはないユニークな空間を演出することができ、ひそかに話題となりました。

店舗の設計から内外装、メニュー開発、接客術まで、すべて自分たちで考案しました。この仕事が認められて、飲食店を運営するだけでなく、設計・施工から飲食に関わるすべてをプロデュースできると評判に。今思えば、僕にとって「仕事馬」は“モデルルーム”ですね。以来、いろんな業態のお店を手がけさせていただけるようになり、本来なら手が届かないような築素材もどんどん使えるようになっていって。このときに、大きな利益を生みだせたことも、次なる事業展開へと投資できた要因ともなっています。


—そこからプロデューサー・下遠野亘が誕生するわけですね。

「表現する」ことで商売がしたい。だが、かっこいい絵を引く人は五万といる。だったら自分には総合プロデュースの才がある、こちらで勝負しようと、自分の立ち位置がおのずと固まっていったんでしょう。最近でこそデザインのみ請け負うケースもありますが、基本的には設計・施工も一気通貫が信条です。


—古き良き“横丁”文化を進化させ、再びブームを呼び起こした“火付け人”の一人は下遠野氏だとうかがっています。

横町とは、表通りから1歩入った路地に、小さな飲食店がひしめきあう一画のことですが、戦後の闇市から続く場所や、地域再生として商店街などが新たに始めた場所など、背景やストーリーはさまざまですが、そこにある“混沌とした面影”に風情を感じる人は多いもの。建ち並ぶ店はみな狭いですから、袖すり合うも多少の縁と、隣り合った者同士意気投合もするでしょうし、気分に合わせて色々ハシゴできるのも楽しいんでしょうね。

2008年オープンした「ネオ横丁」のけん引役である恵比寿横丁は、居酒屋に寿司屋にビストロと、実に多彩な店舗がひしめき合い、客層も実に幅広く、お祭りのような賑わいが特徴なのですが、その後も私がかかわった「品川魚介センター」や「渋谷肉横丁」、「八王子ロマン地下」他4施設以外にも大阪にまで横丁と呼ばれる施設が沢山出来てますね。これはもうブームだと言えるでしょうね。限られたスペースながら「渋谷肉横丁」は3億ほどのお金が動いていますから。


—最近の取り組みについて教えてください。

スパイスワークス 実は今、大手居酒屋チェーンの新業態をこっそり(笑)プロデュースしています。僕のプロデュースはストーリーありき。それが軸となって空間やメニューが広がっていくので、ブレないお店を作るためにもまずストーリーをしっかりと練ります。建築で言うところの設計指針、決まり事と言い換えてもいいかもしれない。さらに素材や調理法の歴史や背景などもしっかり深掘りして、脇を固める。こうして自分なりの、スパイスワークスらしいフィルターを作り上げたら、あとはそのフィルターを通すだけでいい。例えば、段差を見つけたら間接照明を付けるし、階段を上らせるにはその段差に絵や数字を描いて誘導する。こうしたシステムや仕組みを作るのがもともと好きなんですね。あとは、「僕が作り出すものを信じてください」。それで決まりですよ。


—今後の展望についてお聞かせください。

例えば、先日関西にオープンした「牛タン べこ串」があります。「BECO SHYUNIN」、「ベコヒラ」、「ベコ奉行」、「いろ葉」の流れを組む業態ですが、
この仕掛けは8年前にスタート。いずれも牛タンの専門店でありながら実は総合居酒屋でもあるという、専門店に寄せられる期待や信頼と、総合居酒屋で得られる満足感と安心感が得ていただくのが狙い。さらに今回、大阪に牛タン業態をオープンさせたのは、牛タンの発祥地である仙台と大阪との距離感も考えた上でのこと。例えば、この距離感を東京で当てはめると博多になります。これまでにも食で旅する気分を演出して成功した事例は多い。「べこ串」をきっかけに大阪に牛タン文化を根付かせたいと思っています。

「文化がない=ニーズがない」わけではないんです。私たちが沖縄で牡蠣料理の専門店を立ち上げたのも、そう。沖縄の人は牡蠣を食べないのではなく、美味しい牡蠣を安心して食べさせてくれる店がなかっただけのこと。文化がなければ、作り出し、育てればいいんです。新たな業態を生むというとハードルが高いと感じられるでしょうが、ちょっと目先を変えるだけで業態が生まれ変わることもあります。そういう意味で、大阪だけに限ってみても、私たちの付け入る隙と言いますか、埋めていきたい穴はまだまだいっぱいあります。詳しくは、企業秘密ということで(笑)。



下遠野亘氏 プロフィール

1974年千葉県生まれ。高校卒業後、建築関連の専門学校へ進学。
在学中及び卒業後に有名飲食店も手がける工務店で勤めるが、
コックへ転向。料理長、統括マネージャーとして調理技術・管理
能力を磨いた後、ローマやシドニーにも出向き、料理の知識や文
化を深める。
帰国後の2005年、第1号店である馬肉専門店「仕事馬」を水道橋
にオープン。その仕事が高い評価を受け、トータルプロデュース
力の高さを周知させるきっかけとなった。
その後も常に「飲食」に軸足を置きながら、さまざまな業態を
プロデュースし、評判を呼ぶ。その実績は180件以上。現在は国
内だけでなく、海外案件も請け、ワールドワイドに活動中。

(取材=西村ゆきこ)

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